マイナスイオン

水分りの奥社はつかの河鹿かな
十尋の滝まっしぐら岩洗ふ
万緑や千年杉の神さびて

東吉野村の白馬水分神社奥に「投石(なげし)の滝」がある。

東吉野村・投石の滝

高さはおよそ20メートル弱といったところか。すぐそばまで行けるので、滝口から一気に滝壺に落ちてくるさまをあおぎみることができる。滝壺には樹齢千年の神杉が周囲の青葉若葉をしたがえてそびえている。
滝壺から流れる清流のどこかでは、河鹿がいるらしく鳥の囀りに混じってかすかにコロコロと鳴くのが聞こえてくる。

あふれるマイナスイオンを胸一杯吸い込んだせいか、頭もすっきり。これでいい句が授かれば言うことなしなんだが。

声に安らぐ

隠れ沢めく谷筋の河鹿かな

杣の道を慰めてくれるものがいる。

藪に覆われていたりして水はよく見えないし、はっきりとした沢の音も聞こえてこないが、河鹿の鳴き交わしのようなとよめきが心地良い。
やがて、下るにつれて沢は川幅を増しそれと分かる姿を見せてくれるのだったが、なぜかその頃には河鹿の声は聞かれないのだった。

清流の美声

きれぎれに瀬音混じりに初河鹿

狼像の前を台高山地を水源とする紀ノ川支流の高見川が流れている。

川としてはかなり上流に位置するのだがこのあたりは川幅も広くゆったりとした流れだ。しばらく散策してみると句材が限りないほどある。
著莪の花が乱れ咲いて沢から高見川になだれ込んでゆくかと思えば、沢水を引いた小流れの底にカワニナが点々とみられ蛍を予感するものがあったり、目の前の貯木場から崩れた材木が河原に散らかっていたり、橋の中ほどに立てばいかにもシーズン最初のような消え入るような、しかしはっきりと河鹿と分かる玉を転がすような美しい鳴き声が聞こえてきたり。さらに、河畔の木の新緑は透けて見えるほどまぶしく初々しい。

川の名前からして目の前にある大きな山はあの高見山ではないかと尋ねる人もいて、新緑の秘境を大いに楽しみながらの吟行第一歩である。ここで30分ほど時間を過ごしたあと、次に句会場の天好園に向かう道は高見山を借景に夏桜が望めるというこの季節最高のロケーションではないだろうか。