涼しさの尺度

打たれては滝を裏見の菩薩かな

東吉野吟行。

涼しかった。と言っても三十度はある。
盆地より五、六度低いから、それでも涼しいと感じてしまう五体である。
先月の兼題句会で「滝」を詠んだばかりなので、もうひとつ興が乗らなかったが、それでも実際の滝を前にすれば何とか見えてくるものがある。
今日の「投石の滝」は何年か前に見たときよりも水量が多く、そのすさまじい音に圧倒された。
近くには寄れないが、一直線に落ちる滝の後ろに菩薩だろうか苔生した石仏が飛沫を浴びながら鎮座されているのを詠んだのが掲句である。

頭を涼しいせよ

名瀑の風になびかぬもののなく
大滝の風が風呼ぶ飛沫かな

結社の例会は兼題句会である。

題がふたつ、出句は七句。
四ヶ月全敗を、先月ようやく入選。
今月はかろうじて並選二つ。
兼題というのはおよそひと月考える時間があるのだが、これが僕にはかえっていけない。
というのは考えすぎて、あれやこれやとやっているうちに、頭でっかちの句ができたり、言いたいことが余るあげく誰にも伝わらない句になってしまうのだ。そこで、先月から前日まで何もしないと決めたら、たまたま入選という結果を得た。
掲句は、入選句ではないが自分では気に入っているもののひとつ。
滝飛沫をあびて涼しくなりたいものだ。

マイナスイオン

水分りの奥社はつかの河鹿かな
十尋の滝まっしぐら岩洗ふ
万緑や千年杉の神さびて

東吉野村の白馬水分神社奥に「投石(なげし)の滝」がある。

東吉野村・投石の滝

高さはおよそ20メートル弱といったところか。すぐそばまで行けるので、滝口から一気に滝壺に落ちてくるさまをあおぎみることができる。滝壺には樹齢千年の神杉が周囲の青葉若葉をしたがえてそびえている。
滝壺から流れる清流のどこかでは、河鹿がいるらしく鳥の囀りに混じってかすかにコロコロと鳴くのが聞こえてくる。

あふれるマイナスイオンを胸一杯吸い込んだせいか、頭もすっきり。これでいい句が授かれば言うことなしなんだが。

新樹光を浴ぶ

滝口の上の青空大いなる

今日は東吉野への吟行。

天気はまたとない5月の天気。
20メートルほどの高さから一本となって滝が落ちてくる。滝壺の上空は空がぬけて雲一つない真っ青な青空が透けて見える。水流は豊かで清らか、河鹿もときどき聞こえてきて吉野川源流は新樹の光に満ちていた。