落穂と雁

逍遥の彼の径消ゆる出水かな

典型的な梅雨出水が西から北へ猛威をふるっている。

被害にあっている秋田の広大な米どころを流れる雄物川は私の好きな川である。
平野部に出るとおおきな高低差もないので、無機質なコンクリート護岸も見られず、川幅たっぷりに豊富な水がとうとうと流れるさまにはなぜか懐かしささえ覚えるのである。
その雄物川がいま氾濫の怖れがあるという。
もし氾濫となると稲作地帯に甚大な被害をもたらしはしないか、それが心配である。初冬には北から渡ってきた雁や雁が落ち穂をつついていたりする光景も懐かしい。
すでに右岸側の太平川によって秋田市内中心部に大きな被害をもたらしているが、これに加えて雄物川まで氾濫となるとさらに被害がひろがる怖れがある。
このまま、水が引いてくれるよう祈るばかりである。

危険察知

単線のレール歪める出水かな

夕刊トップに痛ましいカラー写真が掲載された。

JR久大線というから久留米から大分を結ぶ線であろう。
西は筑後川、東は大分川に沿って湯布院を結ぶ山間の路線である。
写真は九重町筑後川支流にかかる鉄橋が流されて陸上部分に歪んだまま残されたレールの大写しである。
鉄橋が簡単に流されて鉄のレールが雨のようにひん曲げられるのだから、その前には人間一人の命はひとたまりもない。
治水事業が追いつかず、夏、秋、毎年のように繰り返されると、衰えていく国力に国の負担は増すばかりである。
政が追いつかないのであれば、民の力で防災に努める他はないのであるが、それとて限られていて危険を察知する目を養いさっさと避難するしかないというのが実情であろう。

憎めない川

燃えぬもの磧にからむ出水跡

水は引いたが相変わらず、ポリ袋などが磧の柳に無様に翻っている。

水質でワーストテン常連だが、水が出るたびに盆地のゴミを運びくる川は、見た目にもワーストテンには間違いなくはいるであろう。
そうは言っても地元の川であり、憎めない川ではあるのだが。

負けない

反転は泥の中から大出水

壊滅的な集落。

復旧の目途もたたない状態で、思い入れのある時計が出てきたと被災者の喜ぶ声。
家は失われたが、これがあれば乗り越えられると、自分に言い聞かせるようなインタビューが胸を打った。

災害とインフラ

大出水恃みの井戸の冠水し
早退の機を逸したる出水かな
早退の出鼻くじきし出水かな
早退の帰路を塞ぎし出水かな
入居者の避難急なる出水かな
入居者の避難に暮れし出水かな
校庭に出水見舞ひの飯を炊く
一族の田地田畑大出水
城下守る堤の外の出水かな
町ぐるみ水攻め受けし大出水

新興住宅地が軒並み水害に見舞われたシーンは痛ましい。

昔は人が住んでいなかったような低い土地、田圃などに進出した結果、当然のことに水害に弱い土地が増えてきたのである。治水が容易ではなく、川が暴れるままに任せるしかなかった時代の人たちは、経験上水の来ない高い土地に住むのは当然だし、井戸などを利用して飲み水もうまく手に入れる知恵もあった。

ただ、最近のように雨量が100ミリを超えるのが常態化してくると、高い土地にも洪水は押し寄せ、土砂崩れの危険がさらに高まるようだ。
井戸など重宝していた古くからの家も、井戸が冠水してしまっては後片付けにも、飲み水にも使えない。電気、ガスなど恃みのインフラに被害があればさらに復旧は遅れる。

災害の記憶

堰堤の耐へて出水を免るる
冠水の標に出水の歴史知る
この町の出水の証冠水線

昨夜から昼にかけてずいぶん降った。

奈良盆地にこれだけの雨を降らすのは久しぶりだ。
盆地のあらゆる支流の雨水を集める大和川はかつて氾濫しやすい川だったが、長年にわたる護岸工事などで最近は被害も少なくなった。
ただ、全国何処でも同じだろうが、コンクリートで固めたため雨水は地中に染みこまず、降ればすぐに川の水位を押し上げる怖さがある。いったん雨水を逃がすクッションの役割をになう堰堤などがあると大きな被害を防ぐ効果はあるが、最近の雨の降りようは尋常ではなく、想定レベルを超えて大災害につながりかねない例を毎年のように見る。

今日の雨は何とか耐えたが、大和川は恐ろしいまでの増水であった。
大合流して一本の川となるあたりでは、30年ほど前に大洪水の被害に遭っている。その時の水位を標識にきざんでいるのも、災害の記憶を風化させないためのものであろう。

降れば降ったで

没すること丸一日の出水かな

大和川の河川敷がまるまる水没してしまった。

雨が引いて今は水かさも通常に戻ったが、いつもなら緑の絨毯の河川敷が草木が泥をかぶったままで茶色一色と化してしまった。
久しぶりの雨は大雨だった。盆地の雨という雨を集めて合流後の大和川は水位が大きく上がり、支流では線路が冠水しそうになって電車が止まったりするほどだった。さいわい氾濫するほどには至らなかったが、盆地の出口が狭隘なのでいったん氾濫すると手がつかないくらいの水害となりそうな地形だ。
我が家は高台にあるので直接の被害はなさそうだが、はたしてどれだけの雨量に耐えられるのだろうか、やや不安な大和川である。