音響空間

囀の竹林にあり見つからず

竹林というのはいい響きがする場所だ。

この中で、あるいは接するあたりで鳥が鳴くとほんとにいい響きに聞こえる。
そのうえ、竹林全体に響き渡るのでいったいどこで鳴いているのかさえ判然としなくなる。
節の間に空気をふくんだ反響体が乱立し、おまけに節の丸い形状が音を全方向に反射しあう効果もあって、竹林全体が格好の音響空間なのである。
声の主を見つけるのはあきらめて、囀りのオーケストラに耳を傾けることとする。

雉走る

立姿佳き裸木に囀れる

ここんところ囀りを聞くようになった。

今日の主は櫟の大木のホオジロ君。
最初はこの木に啼いていると分かっていてもなかなか発見できなかった。何人かが木を見上げるようにして通り過ぎてゆくが、そのなかのご夫婦があそこだと教えてくれて、ようやく枝でうまくカムフラージュされてるのを見つけることができた。
特別史跡「巣山古墳」の濠でも、鳴き交わすようなカイツブリの番。

今日は久しぶりに多くの鳥たちが顔を見せてくれて愉しい半日だった。
なかでも、10メートルほどの距離をおいて菜畑から赤い鶏冠が出て、やがておそるおそる出てきた雉の目と目が合ったときの彼の緊張ぶりがおかしかった。「雉も啼かずば撃たれまいに」ではないが、人家に近い田や畑をぶらり散歩していて危険な目に合わない方がおかしく、人が来ても飛び去るでなく、用水路に隠れたり菜畑に逃げ込んだり、その何となく不器用な生き方に声援したくなった。

粗鋤の田を蹴り雉子のひた走る

踊る音符

囀の一オクターヴ越えたるか

ふだん見かけない鳥がいる。

カップルのように思えるが、電線の五線譜を跳んでは鳴いて、まるで音符が踊っているである。
鳥たちにも春が来た。
歓喜の声は上下によく転がって、その音階差は1オクターブを越えて行き来しているようにも聞こえる。
間もなく、営巣、産卵、そして子育て。そうなると、今朝のような耳にも心地いい音楽が聞ける期間はかぎられている。
冬の間の探鳥は、その姿を認めるのが楽しみなのだが、これからの季節は目ではなく耳で楽しむのである。

恋の季節

囀や烏は恋の調子にて

森を歩けば鳥の声が賑やかだ。

中には、思いがけない聲も混じっているから驚く。烏の求愛だ。普段のだみ声とは似ても似つかぬ、何とも甘えた声はどうだ。
歩きながら、うまくやれよとエールを送っておいた。

宇陀水分神社

囀の降りける杉に神宿る

宇陀水分神社の神殿は国宝。

その立派な神殿の後背部が斜面になっていてうっそうとした杉の林が広がっている。その大きな杉の木立をぬって鶯が逍遥したり、高みで名の知れない鳥が歌っている。それらの声が反響するかのように、本来はしんとした境内の静けさを揺るがしていた。