帰ろうサイン

部屋一つ割り当てられて夜長かな

今月から町内放送の帰ろうサインが午後五時に繰り上げられた。

春から夏は午後六時で、まだまだ暮れるには空も明るくやれることも多い。だが今となっては日が沈むのも早くあっという間に時間が過ぎてゆく。
蚊も少なくなって外もいいが、どうしても秋は室内に居る時間が長くなる。
夕飯、風呂が終われば夜は長い。

払底

樽買のボトル封切る夜長かな

年代物のウィスキーが品切れだそうな。

12年、17年といえば、いまやごくポピュラーな酒だが、メーカーでは想定以上の需要盛り上がりで値上げどころか、原酒自体が底をついてしまったのだという。
有名洋酒メーカーにいまも現役で頑張っているI君のところで、何回か工場見学をさせてもらう機会があったが、寝かせてある樽がずらっと並ぶところなどは壮観でさえある。聞けば、入社年に仕込んだモルトを同期一同で樽ごと確保できるシステムがあるそうな。
同窓会などで、そういう貴重なものを手土産に持ってきてくれるI君も太っ腹なら、メーカーもまたおおらかな社風で、いい会社とはそういうような企業風土が組織のすみずみにまで行き渡っているものであるらしい。
工場見学でいただいたミニボトルが封を切らぬまま棚に鎮座したまますでに数年経過している。この銘柄もいまやなかなか手に入らないものである。飲もうと思えばいつでも飲めるのであるが、ここまで時間が経過すると、もはや記念品を通り越して思い出に近いものになるので、なかなかそういう気にはならないのである。

つぎはどこだ

避難所に地震の初日の夜長し

全道停電だという。

一部復活したようだが、全道に灯りが戻ってくるのは一週間以上かかる見込みだとも。
大阪の地震に注ぐ台風禍、広島・岡山・愛媛の水害禍、つぎはどこかという漠然とした不安がもたげてくる。

自尊心

夕食が終わりし母の夜は長し

食事の時間以外はベッドで過ごしている。

昼間うつらうつら過ごしているので、夜は熟睡ができないとこぼしている。
「昼間は寝ない方がいい」ことは本人が十分に知っているのだが、病魔がむしばむ体は着実に衰弱していく。
それでも、空ろな意識の中で自らの状態を確かめるように「今日は何日か」と尋ねたり、自分で新聞の日付を確かめたりしている。自尊心が未だ健在なのが救いである。