目をそむける

寒紅をさして見舞いの客を待つ

男が女の病室に入るのは、どこかためらうものがある。

同部屋の人への気遣いも必要なのは無論だが、全くの無防備の女人に会うこと自体はばかれるのだ。
普通であれば、化粧もし、それなりの衣服をまとった姿しか見たことがない人の、一番見てはならない部分を見てしまうような申し訳なさを伴うのだ。
女の人だって、少しでも恥じらいを忘れていなければ、他人には病室の姿なんて見られたくないだろう。
だから、女の人の見舞には行かぬことに決めているのだが、家人などが入院した場合はやむをえず病室に入ることにある。
そんなときでも、なるべく他の人とは目を合わさぬようにしているが、それにも限度がある。
見ようとしなくても、痛々しい姿が目に入ってくることもあるのだ。

家人には冷たいと叱られるが、早々と病室を出るしかないのである。

ルージュ

寒紅をさして女将の顔になる
寒紅や細腕稼業板につき
寒紅や亡父残せし店の味

気がついたらとうに寒に入っていた。

「寒紅」は元は紅花から作る紅は寒にできるものがいいという意味であったが、近年は寒中にさす口紅のことも指すようである。
寒紅をさして殊更の情景が浮かべば成功と言えるが、紅さす身ならぬ男のせいか、いざ詠もうとするとなかなか難しい。

夕方身づくろいして紅を引いたら、いつもの女将になっていざ客を迎える顔になったということを詠んだのだが、単純すぎるかな?