長い夜

点滴のままで髭剃る朝寒し

入院中に朝晩の気温が一段と下がったようだ。

何をするにも廊下を行けば、点滴スタンドがガラガラと鳴り響く。
造影剤を洗い流すための生理食塩水の点滴のせいで何度も用を足したりしなければならないから、深夜ならなおさら音だけが妙に大きく聞こえる。
点滴のパイプがずっと体にまとわりついているというのも鬱陶しい話で、寝返り打つときに巻き込みはしないかとか、詰まらせはしないかと恐れていると、案の定警告が何度もなってその都度目が覚める。起きればまた用足しに行くという具合にますます廊下を歩く回数がふえてしまう。

そうこうしてようやく長い夜が明けるというころ、看護士さんたちが血圧や体温を測りにくるので眠りはどうしても浅くなる。ひげそり中の鏡の中はボサボサ髪でひどい顔をしている。

生きた証

朝寒や回収袋の遺品かな

病院からそのまま着の身着のままで我が家にやってきた母。

葬式を終えたばかりの朝、すでに遺品となったいくらもない衣類が無造作に黒いポリ袋に放り込まれていた。