洗車雨

水無月の甘雨となりし六日かな

7月6日に降る雨を「洗車雨(う)」と言う。

一年に一度会うために牽牛が車を前日に洗う水が雨となって落ちてくるからだそうである。
今年の洗車雨は皮肉にも梅雨明け後の台風によってもたらされたわけだが、明日7日の気圧配置からすると当地の天気はよさそうである。7日の雨「洒涙雨(さいるいう)」にはならない見込み。ちなみに洒涙雨というのは別れるときの涙が雨となって落ちてくるからとか、雨によって会えなくなる悲しみの涙だとも言われる。いずれにしても今年は洒涙雨にはならずちゃんと一年の一度の逢瀬が実現することになりそうである。
ところで、いつもなら七夕は梅雨の真っ最中で晴れることはまれである。本来旧暦の7月だから新暦の7月ではどうしてもそうなってしまう。七夕の傍題に星合、星祭、星今宵などがあるが、これも秋の空と考えればすとんと腑に落ちる。
学校も幼稚園も夏休みに入ってしまうから新暦の行事となったのも止むを得ないことか。

いじめる

ひび走る水無月の田となれりけり

極暑の帰路についていたら、青田がすっかり干上がっているのを見た。

水無月を今の六月だということも多いのだが、文字面でいけば炎暑のために水が涸れて無くなる月、したがって梅雨が明けた七月の今ごろとするほうよほどしっくりする。
ただ、農家の知人の話では、根張りをよくするためいっとき水を断っていじめることがあるようであり、もしかすれば今日見たのはそういうことだったのかもしれない。というのも、田の脇にはいつも山の溜池から引いた水が豊かに落ちているので、水不足ではないはずだからである。
風の抜ける隙間がないほどにびっしりと育ち、稲の花が咲く日も近い。

夏越の大祓

水無月の晦日神事の巫女駈けて
形代を茅の舟にて流しけり
行きずりのハイカーくぐる茅の輪かな
山辺のハイカーくぐる茅の輪かな
菅貫を氏子の犬のくぐりけり
まず作法習ひて茅の輪くぐりけり
千歳伸ぶてふ歌唱へ夏祓
禰宜巫女につづく長蛇の夏祓
夏祓禰宜にしたがふ長蛇かな
夏祓禰宜待たさるる長蛇かな
切麻(きりぬさ)の散らばりしまま御祓果つ

今日はいわゆる「夏越の祓」の日である。

大祓とは6月と12月の晦日に過去半年犯した罪や穢れを除くための祓えをすることで、6月が夏越の祓(なごしのはらえ)、12月が年越の祓(としこしのはらえ)と言われる。
大神神社の茅輪くぐり神事
とくに夏越しの祓えでは各神社では「形代」に穢れや病を移し、水に流したり、茅を編んで輪にした「茅輪」を三度くぐって穢れを祓ったりする。この輪をくぐるとき次のように歌いながら行進するのだ。

水無月の夏越の祓する人は千歳の命延ぶといふなり(拾遺集)

何でもこの大祓は大宝の律令によって定められた行事で、衛生状態のよくなかった当時疫病を退散させるための行事であったのだろう。一時途絶えていたと言うが、明治になって大祓の復活が命じられ今日まで続いているということだ。

大神神社では午後三時からあるというのでお詣りしてきた。一人一人に渡された形代に息を吹きかけて穢れを移し、水に流す神事の後神職や巫女に続いて茅輪くぐりし、最後に大祓のお札をいただいて終了だ。

なお、「夏越の祓」「形代」「茅の輪」いずれも夏の季語で、傍題も多い。
大神神社の五月闇
梅雨空で参道がおぐらくて昼灯ししていたのを写真に撮っていたら、石段を駆け上ってきた巫女さんたちと目があって、彼女らは恥ずかしそうに歩を緩めるのだった。

9月号の締め切りがなんとか間に合ったと思ったらもう明日は7月。しかも第一火曜日なのでまほろば吟行の日。いやはや。