締め切り直前

汗しとど人身事故のわりくうて

突然車内アナウンスがあった。

「XX線で人身事故発生」。
幸いにも、乗った電車は別路線でことなきをえたが、XX線を利用している人は多い。句座の仲間でも何人か相当して、たまたま一電車のちがいでセーフかアウトか。
通常は1時間か1時間半くらい前に着いて席題など検討するのだが、投句締め切り30分前にかろうじてやってきた彼女は、さんざんな目にあった顛末を語る時間もなく投句用紙に向かい合うが、汗が滝のように流れてくる。
隣に座った句友が横から扇子で風を送るなど細かな配慮がやさしい。

投票日

候補者名すらすら書きて汗ぬぐふ

いつもなら車で行くところ、散歩を兼ねて徒歩で。

梅雨の晴れ間で久しぶりに日がのぞいた。
少し歩いただけで、汗がじわっとにじみだすが、今日くらいの暑さなら我慢の範囲。
そう言えば、もう7月の20日も過ぎたというのに梅雨明けの兆しはない。
本格的な夏が來たら來たで、その時はその時。
今日は何日ぶりかのエアコンだ。

勲章

はらからを叱る長女の汗匂ふ

今日も汗をいっぱいかいた。

汗というのは貴いものだと教わったが、近年は不快なものの代名詞のように思われてはしまいか。
やれ、制汗剤だの、汗取りシートだの。

ぐっとさかのぼって、近所にひとつ年上のお姉さんがいた。美人ではけっしてなく、父母を助けていろいろな家事をこなしているので顔は真っ黒けに灼け、あか抜けたところなど何一つなかったが、多くの弟たちを一喝で黙らせる肝っ玉姐さんであった。
ただ、他人にはちょっと人見知りするというのか、シャイなところがあって、近づくとすっと避けるようにするのだ。
たぶん、そのわけは彼女の体質によるものだと、小さいながらも理解できた。彼女の汗がすえたような匂ひを放つのだ。「わきが」というやつだろう。
ただ、働き者の彼女を揶揄するものなど誰もおらず、いま思えばあの匂ひは彼女の勲章だと思えるのである。
あの日から60年。彼女や一緒に遊んだわんぱく小僧はいまどうしているだろうか。

体たらく

炎天の瓦礫の山に立ち向かふ
汗つたふ戦闘服とヘルメット

明け十日。

炎帝の支配のもと、水まだ引かぬ町、道路、壞れたままの家。
この荒梅雨がもたらした炎熱地獄に、行方不明者の捜索、泥かき、後片付けに追われる被災地。

被災地の地獄を思えど、昼過ぎに早くも音をあげてエアコンにすがる体たらく。明日はわが身かもしれぬのに。

義援金は被災者に、救援金は復興に使われるという。せめて貧者の一灯を。

グラウンドにて

膝折りてダッシュの汗の落ちにけり
汗落ちて土は煙を吐きにけり

朝練とはいえ、旱がつづくグラウンドは乾ききっている。

甲子園のようによく整備されたグラウンドにはほど遠い校庭などでは、関東ロ−ム層に典型的なように土の性質によっては細かい粒子のようになって、少しの風にも土煙が舞い立つし、雨が降れば水はけが悪くいつまでもぬかるみが消えないという、選手泣かせのところもある。
先ほどからダッシュ何本もやって、膝に手をやり息を整えているが、さかんに吹き出している汗が滴り落ち、それがミルクの王冠のような跡になって土煙をあげる。

夏も終わりに近い。
甲子園が始まるといよいよ秋が顔を出してくる。

シャワー

鎌の手に首に額に汗流る

草が刈っても刈っても伸びてくる。

午前中に思いついて、先日刈り残したところを刈っていたら、結局全部を刈らねば気が済まなかった。
雑草を詰めたポリ袋がいくつも積み上げてようやく終了。
シャワーで全身の汗を流したが、体の火照りはしばらくおさまらず、またたく間に汗のタオルとなった。
だが、この汗はべたつきもなくサラサラしているようで、気持ちのいい汗である。
昼寝1時間は褒美として、後ろめたさはない。

夕立来い

汗をかく五体のときに疎ましく

汗をかくのはもちろん大事なことだ。

そうと分かってはいても、べたつくような汗が顔や首、腕など全身にまとわりつくような日は心底気味が悪い。スポーツなどでかくさっぱりした汗とはちがい、ただじっとしているだけで滲み出てくる汗はとくに始末が悪い。
シャワーを浴びればすっきりするのだろうが、そうすればそうしたでまた汗にまみれる繰り返しになることが目に見えているので、どこにも逃げ場がないような気さえしてくる。
今日あたりから台風の影響で空気が重く湿っている。せめて夕立でも来てくれるのならいいのだが、黒い雲から一回パラパラときただけでもうそれっきりの一日だった。