秋色

田仕舞の煙たなびく裏生駒

生駒の山腹をキャンバスにして幾筋も煙が上る。

平群谷の秋の色もいよいよ深くなった。
奈良公園では早くも紅葉の見頃マークがついて、例年より半月以上早いような気がする。
ぼおーっとしていたら、紅葉前線に追い越されてしまいそうになっている。
短い秋もはや終わろうとしている。

冬備へ

田仕舞の煙漂ひ大和川

大和盆地は冬準備。

煙りが田のあちこちに上がっている。もし風がないと、その煙がどこにも飛ばされず、道路と言わず住宅や集落ごと、ところ構わず漂うことになる。さながら霞みか雲か状態。

大合流なった大和川の辺りでは煙りにすっぽり覆われて、対岸の様子はさだかでない。

懐かしい匂い

田仕舞のけぶり懐かしかぐはしき

もみ殻のほかにこぼれた藁屑や穭穂を焼いているらしい。

稲藁の焦げる匂いははどこかなつかしくていい香りがする。稲藁なんていうのは最近はめったに手にしたことがないが、庭木の防寒対策にと藁をホームセンターで買ってきた。結構いい値段がするのには驚くが、鼻に近づけるまでもなくいい匂いに思わず深呼吸してしまうほどである。
新藁ならなおさら香りは高く、これを燃すのだからまた特別なものがある。
しばらくは眺めるともなくそのまま立ち尽くして懐かしさに浸っているのだった。

冬準備

田仕舞の煙りの高く平群谷

これを谷と呼んでいいのかどうか。

ただ、南アルプスと中央アルプスに囲まれた天竜川沿いの土地を「伊那谷」とか「伊那平」と呼んでいるように、平群の里も西は生駒山地、東は矢田丘陵にはさまれた土地で、北の生駒市に接するあたりの竜田川が深くえぐれてそこから大和川合流まで南下しているさまなどは伊那谷の天竜川を思わせ、この一帯をどうしても平群谷と呼びたくなってしまうのである。

ある小春日、この谷を南北に走る近鉄生駒線の車窓から平群谷に幾筋もの煙が立ちのぼるのが見えた。間近のはどうやら籾殻を燻して燻炭を作っているようである。冬準備に追われる里の一齣であった。

補)「田仕舞」を季語とする歳時記はあまりないようである。ただ、今年の田仕事の全てを終えたいま、冬を越し来春のために田をかたづけると言う作業の尊さを考えると、これが季語でないとする考えは理解できない。