山はもう夏

信貴の嶺の肩なだらかに若葉山

山はもう夏模様である。

ふっと見上げた信貴山の頂上からなだれるように若葉の稜線が落ちてくる。
桜のピンクがまさにフェードアウトするかのように、かすかに残像を刻んではいるが、もう春の山ではない。若芽がいっせいに芽吹いた後すでに若葉が展開してないと、あのように黄緑色が迫ってこない。
季節はいつもの年よりもはるかに先に進んでいるようである。

緑に染まる

丈六の若葉明りの薬師かな

法隆寺の西の端っこの八角堂。

観光客のまばらなこの一画はじっくり丈六の薬師仏を拝することができるが、この時期は特別だ。
堂全体が若葉色に照らされていつもよりも明るいくらいだが、堂は一方しか開いてないので内部の暗部との差が大きくて目が馴れないうちはお堂の中がどうなっているのかすぐには分からない。
だから、真っ暗な空間に丈六仏だけが緑がかった若葉明かりに浮かぶさまは息をのむ美しさである。

手に負えない

若葉して萩の寺とはなりにけり

萩若葉は若葉のうちは真っ直ぐに上へ向かって伸びる。

そして、伸びきってからようやくうなだれ、乱れ萩となるのである。
かつて庭に植えてはみたものの、とんでもなく広がりだすので手に負えず結局伐採してしまった。
やはり、境内の広く、十分なスペースのあるところにこそ相応しいのだと悟った。