寒い風

球団来て蛍の闇の失せにけり

地元の町にJ3チームの本拠地が移された。

ところが、町おこしという意味ではいい話しだが、蛍にとっては大迷惑となっている。
某大学が移転した跡地にやって来たチームだが、大学の立派なグラウンドがナイター設備をもつものだから、毎夜のように練習の光りがもれて蛍が激減しているというのである。
地域住民が長い年月をかけて育ててきた蛍の飛ぶ沢がグランドのすぐ下にあり、闇を奪われた蛍が恋の季節を迎えることができず個体数を減らすばかりだそうだ。
蛍は風のない闇の夕から夜にかけて飛ぶのはよく知られている。ナイターの練習時間がまさにこの時間帯に当たるものだから団体もお手上げだ。
行政では蛍保護活動のことは知っていたはずで、何の手も打たれなかったというのも胸に寒い風が吹くばかりである。

闇の妖精

蛍の闇に背筋を走るもの

漆黒の闇というのはぞっとするものがある。

蛍というのは、街灯もないところにこそ舞うものなので、よく見ようと懐中電灯を消すとそれこそ闇なのである。まして、雨の時期だから月もなくて真っ暗闇になることは多い。
最初のうちは夢中で蛍をカメラに納めようと楽しんでいても、やがて周りを見る余裕ができると、あらためて恐ろしい場所にいるのだと思い知る。そうなると、もういてもたってもいられなくなって、蛍狩りはお仕舞いになるのだ。
本来、蛍は人里にちかいところに棲息するものだが、最近は里の近くは蛍が生きられない環境が多くなった。だから、人里離れた闇の中はまるで異界のようにも思えてくるのだ。

螢川

蛍川寄り来て靴の泥まみれ

梅雨に入ると蛍の季節。

雨で農作業が出来ない日は、麦わらで蛍籠を編む地方が今もあるという。
この籠は底抜けなので、蛍を楽しんだらすぐ逃がすことができる仕組みだ。
麦わらでできているので、微妙に不揃いな編み目から洩れる蛍火はランプシェードのようにほんわりと灯るにちがいない。

護岸コンクリートの川には蛍は生息できない。