濃霧

濃き霧をやがて透かして遅き日を

予報は晴れなのにずいぶん暗い。

厚い霧が盆地全体を覆っているのだが、まるで曇天のように太陽も見えない。
9時半頃になってようやく、濃霧を透かして高い日が上るのを発見する。ようやく霧が晴れようとしているのだった。
午後は嘘のように快晴の空が広がって心地いい秋日和となった。

もやもやがはれると

生駒嶺の霧は霽れたりケーブルカー
霧霽れてあれが暗峠とや

今朝は濃霧。

しかし、もう8時をまわる頃にははれあがって生駒嶺に生き生きとした朝日がさしている。
暗峠も意外に低く見えてきたりして、すぐにたどり着けるのじゃないかと不遜な考えさえもたげてきた。
20分の乗車でいくつか句が生まれたり、霧や靄がぱっと開けると眼前にはいろんなものが新鮮に見えてきて不思議な一日であった。

神さびる

神杉の渓に傾げて霧深し

屋久島杉など、およそ大杉というのは、どんな斜面でも普通直立しているものだ。

ところが、ここ丹生川上神社の千年杉は社前の丹生川に向かって傾いているのだ。
光の向きや、脊山からの風向きなどの影響かと思われるが、30メートル以上はあろうかという大杉が、まるでピサの斜塔のように真っ直ぐなまま傾いている光景はちょっと他に見ない。
奥吉野の水が豊富な場所であり、雨でも降ればさぞ幻想的なシーンに生まれ変わりそうだが、罔像女を祭神とするだけに、朝霧などであたりが白く烟るといっそう神さびた趣に包まれることだろう。

先を急ぐ人たち

霧霽れて葛城古道神さびる

日が昇るとともに霧がどんどん晴れてゆく。

古道は古くは葛城氏の祖・高皇産霊神(たかみむすびのかみ)を祀った高天彦神社をはじめ、鴨遺族ゆかりの高鴨神社、一言主神社、笛吹き神社などに祀られ、伝説に彩られた神さまの道である。
山麓の斜面の北から南へゆっくりと上り勾配になり、金剛山のふもとまで続く。最も高度を得た辺りの眺望は素晴らしく、何度来ても飽きないものがある。ただし、相当高いところなので思った以上に気温が低く感じる。このあたりが高天原とされる場所で、なるほど大和を十分に見渡すことができる。

古道マップを巡るハイカーは一カ所にとどまることを知らず、次から次へと目標をクリアしてゆく。吟行メンバーが句帖片手にじっと立ち止まっているのとは大違い。