謂はぬ色

山梔子の核に灯しの兆しある
山梔子の胴の内より灯りそむ

山梔子は梔子の実をいい、着色料や生薬の材料となる。

梔子色とはこの実から抽出される黄支子(きくちなし)に紅花を重ね染めた黄赤色で、かつては高貴な人(皇太子)にのみ許されたという。
7月に花が終わると大きな実を残すが、9月末ころから徐々に色づきはじめ、11月には全体が見事な色に染め上がる。
ちょうど今頃は色が出始めて間もなくて、青い実の胴体の中というか芯がほんのり黄色味がさしている程度である。

この色は「口なし」の連想から「謂はぬ色」との別名を持ち、古今集などの古歌にも詠まれているようだ。

秘め事

山梔子の色に出にける思ひかな

紅葉真っ盛りの春日大社万葉植物園を訪れた。

さすが規模日本一とあって短時間ではとてもすべて頭に入りきれないほどの種類とそれぞれに因んだ歌の数々。多くの植物が冬支度でシーズンを終えようとしていたが、この山梔子は艶やかな葉に対抗するかのように実を橙色に染めていた。このあと気温がさらに下がるとともに赤に染めてゆくのだろう。