河原石

魂抜いて縁なき地なり遠かなかな

生後十日で亡くなった。

一家は戦後の生きるに精一杯の暮らしに、その骨を父の実家の墓に鎮めた。一時的に預けたつもりだったのだろうが、そのまま長い年月がたった。
盆に行けば先祖の墓には必ずお参りしていたのだが、その墓は墓というにはあまりに粗末で五十センチ平方ほどの基石に河原の丸石がぽつんと乗っているだけであった。
子供心にもなんとも侘びしくて、それは寂しい墓であった。
妹の墓である。大きな地震が起きてその犠牲になったのだが、たまたま親戚に行っていた私は無事だった。
ある年大雨で山が崩れて墓地全体をさらうことがあった。その再建にも父母は不義理をして磧石の妹はあわれ無縁仏扱いとされていた。
後年それを知ったとき父の墓に入れると決めた。どこにあるとも知れない妹の霊にむかって魂抜きの法事を済ませ、幾ばくかの土を壷に納めてだいじに持ち帰った。
今は父母の墓に埋葬されて、ようやく親子の静かな時間が流れている。

“河原石” への2件の返信

  1. そんなことがあったのですか・・・生後十日で。
    昔は河原の丸い石を乗っけただけの粗末な墓石をよく見かけたものです。
    戦後はどこも貧しい暮らし向きでした。
    今はご両親と共に安らかにお眠りでしょう。  合掌

    1. そのとき私は水も薬も何も受け付けず、医者も匙を投げて何時死ぬかという状態だったようです。地震で亡くなった年子の妹の母乳がまわってきて奇跡的に生き残れたと聞かされました。
      妹の命を引き継いで生きているようなものです。

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