涼しい声

初秋や銀の機体の夕映えて

天気は必ずしも佳い日ではなかったが夕焼けがきれいだった。

大阪空港行きだと思うが、銀色の機体がまるで赤蜻蛉のように映えて山の端に落ちてゆく。
ただそれだけのことだが、昨日まで眺めていた夕空とはちがう空気を感じることができた。
おそらく気分のなせる技だから、どこがどう違うのか説明は無理なのだが、少なくとも夕はもう秋の気配なのである。
おりしも蜩も鳴き始めたようで、涼しそうな声に帰宅をうながされた。

クマゼミ落つ

初秋や蛇口吐き出すぬるき水

やれうれしや。

連続で秋の朝を迎えられるとは。
一昨日の朝などは、夏掛けでは寒いくらいであった。
日中も空気がからっとしてて、快適だ。
だが、そとの日射しの強さはどうだ。帽子や日傘なくては一分と立ち止まっていられないほど、チリチリ灼けるのは真夏に同じ。
この涼しい空気とともに、足もとにはクマゼミが落ちているのを見るようになって、ようやく蝉の主役も交代時期かと思う。
イソヒヨドリ君が久しぶりに電柱の天辺で、あのかわいらしい声を聞かせてくれるのも愉しい。
朝の蛇口の水の温さに驚くのも、急な秋の訪れのことで当然であろう。

夜空のラッシュ

初秋や吉野上空機影三つ

気持ちの良い夜である。

ふと顔を上げて窓の外を見ると、吉野上空に航行灯が点滅しているのがはっきり分かる夜だ。関東あたりからやってきて伊丹などに降りるのだろうか。みるみる機影が近づき生駒の山を越えてゆく。そうこうしているうちにも次々と機影が湧いてくるように吉野の方角からこちらに向かってくる。この時間、夜の8時半頃だが、旅客機もラッシュアワーなんだろう。

僥倖

初秋やしばし語らふ友のあり

今日は思いがけず俳句友達のO聴君と西大寺で会うことができた。

墓参のついでに奈良にも立ち寄られたので少し時間があるという電話。
日中の暑さもものかは、とりもなおさずかけつけるように待ち合わせ場所へ。

帰りの電車の中、夕なずむ平群の風景を見ながら、声をかけてくれる友のあることに心満たされていた。