半夏生明かり

半夏生映ゆる媼の畑の隅

畑の一角が半夏生に埋められている。

腰も少し曲がった翁の背丈を越すくらいに元気そうである。
いつも通る抜け道だが、今日までまさかそんなところにあるとは夢にも思わなかったので少なからず驚きである。広さにして2メートルかける5メートルくらいだから、10平米。3坪ほどが今まさに葉の半分を白くして田植時であることを教えている。
見渡せば、棚田の一番奥まったところから水が配られるようで、棚田のもう半分ほどが田植を終わっている。いつもの年に比べて二十日も早い。やはり、今年は例年になく雨に恵まれて溜池がもうあふれているのではあるまいか。
殘りの田もほとんど代掻きが終わり、早いところでは苗さえも配られて田の隅に仮植えされているところもある。この数日で見えるかぎりの棚田の田植は済んでしまうに違いない。
ところで、雑節のひとつである半夏生は夏至の11日目から七夕の日までの五日間を言い、今年は7月2日からとなる。関西では滋養ある蛸を食って英気を養う習慣があるとか。
もっとも、その蛸も昨今の高値ではパクパクとまではなかなか大変そうである。

田植え終えたか

半夏生咲いて尼寺の門の閑か

今日が半夏生。

夏至から数えて11日目、もしくはそのあと5日間を言う。
この半夏生までにはすべて田植を終えるのが目安とされてきた。
いまの盆地はこの雑節がしっかり守られていて、ようやく植田が広がる季節となった。
歳時記に取り上げられるのはこの雑節でのことである。

一方、半夏生は植物の名でもある。
葉の半分が白化するので半化粧からきた命名のようである。
当県では規模において御杖村のものが有名であるが、案外知られていない名所が奈良市内の「興福院(こんぶいん)」。一条通からちょっと入ったところにある尼寺である。
事前に予約必要と言うことで人はあまり見ないが、季節には門前の池がこの半夏生で満たされる。
閑静なところに、ごく自然に見える手入れのされた池と半夏生。
いつまでも見ていて飽きない。

尼寺の静寂と

半夏生庵主の住まひ給へりて
半夏生尼寺の壁に映えにけり
半夏生葉先の化粧(けわい)残したる

今日は夏至から11日目、半夏生である。

同名の草花・半夏生を調べてみると奈良県では準絶滅危惧種に指定されているとのこと。
三重県境の御杖村の棚田を利用した岡田の谷の半夏生園という景観資産があるが、いかんせん遠いので近くでないか調べると、果たして奈良市内の興福院(こんぶいん)という尼寺の門前にあるという。早速訪ねてみると今がちょうど盛りで、白い穂が伸びて小さな花をつけている。この花を有名にしたのは、どちらかと言えばこの花よりも葉で、上から数枚の表面が根元からだんだん白く変色してついには前面真っ白になることから「化粧花」とも呼ばれる。
すぐ近くにはいっこうに鳴き止まない鶯、そして半夏生の群れが尼寺の白壁と相呼応しているかのようだった。

興福院の半夏生

7,8月は興福院は非公開で門は閉ざされていて鶯の他は何も聞こえない静寂の中にあるが、門前の池には立ち入ることができる。
もうずいぶんな人が見物に来たと見えて、池の周囲は草の踏みしだかれた跡がおびただしい。中には足許に注意を払わなかった人もいたらしく、踏まれたのであろう捩花があわれな姿をさらしていた。