遠い道

啓蟄の雨に凍ゆる日なりけり

今日は啓蟄だが、雨で寒い一日となった。

すでに野では蛙の声も聞かれたが、こう寒くては餌となる虫も少なく本格的な活動の日は遠のくばかりであろう。
人間とて同じで、こう雨が多くては予定していたものも思うに任せず気ばかり焦りもどかしいことである。
ここのところ句会の成績もぱっとせず、雨をさいわいに次回の題に相対して作っては消し、書いては消しの一日を過ごした。
即吟も大事だが、このようにいちどいくつか詠んでみると次の日にはまたあらたな角度へと広がることも多く、何とか形になるものが見えてくるときがある。
目指せ五千句も質を問われれば限りなく先のことではあるが、まづは十三年ここまで続けて来れたことをもっておのれを慰めているのである。

共存共栄

啓蟄を待たず大地に鍬を打つ

雛祭が生われば啓蟄。

虫が出てくる時分だという。この頃の雷を「虫出の雷」とも呼んで季語「初雷」の傍題ともなっている。
人の動き出すのもちょうど今頃。その今畑に鍬を入れれば冬眠の蛙を傷つけることになる。働き者が生きものを傷つけるとは何とも逆説的だが、地球環境が危機に瀕する今こそ共存共栄でいきたいものである。

知恵をめぐらす

啓蟄の芝生に嬰のあんよ着け

歩くにはまだ早い児を抱きかかえている。

その足をちょんちょんと地に着けて、早く歩けよとの願いか。
高い、高い、ならぬ「あんよは上手」の親心かも。
お姉ちゃんたちは芝生の広場でボール遊び。
遊ぶ場所が限られる今、庶民はそれなりに知恵をめぐらせている。

土に触れる

啓蟄や如雨露に水をあふれしめ
啓蟄や如雨露の錆の浮きしまま

久しぶりに如雨露を使う。

日射しがだんだんと強くなって、暖かく感じると言っても、鉢物の霜除けはまだ外せない。
だが、いくらか芽が動き出したようなので、水をほしがってるに違いないと思い灌水することにした。
土が乾ききっているから、少々ではまだ足らないとみえて鉢底からこぼれる量も少ない。そこでたっぷりとやると、土に精気がもどってきたように、土独特の強くて、しかも春のような匂いを発しはじめた。
しばらく様子を見ていると、赤い虫が飛び出したようで、止まったところを見ると、ナナホシテントウである。
鉢の底に隠れていたらしいのをどうやら驚かせてしまったようだ。
さらにもう一匹出てきたが、こちらは飛ぶ元気はないようで地面を這っている。
明日は高いところでは20度にもなるという。
ものの芽が動き出せば、虫だって動き出す。
土と関わる時間がいよいよ増えてきたようだ。

わき出づ

啓蟄の梅田の迷路を脱けられず
啓蟄や好奇心の虫ぞ吾は
啓蟄やネットで買うた本積んで
啓蟄や些末重ねて甚大に

今日は啓蟄らしい。

たしかに気温もぐんぐん上がって、この陽気なら虫が這い出てもおかしくはないと思う。
心なしか尉鶲の回遊するインターバルも短くなっているようで、一時間ごとに庭に来ては何やら啄んでいく。
梅も終末期に入ったようで、茶色っぽいしべが目立つようになってきて、蜜が枯れたかメジロはまだ見ていない。
愛嬌のツグミも来なくなったし、そろそろシベリアへ向けて集結し始めたのかもしれない。

春にアクセル

啓蟄や居所悪き虫ひそむ
啓蟄ぞ出や獅子身中の虫
啓蟄や飛んでけ苦虫腹の虫

これだけ暖かければ虫も飛んで当然だろう。

花はもういっぱい咲いているし、餌にも困らない。
その這い出た虫を狙って鳥も飛ぶ。
腹が満たされれば,次は恋だ。
子供たちが生まれてくる頃は春真っ盛り。

春がいよいよ加速されてゆく。

放逐されたものたち

啓蟄や六畳の間の盆鉢に

先月から虫が活動を始めている。

室内に入れた鉢に冬眠していたのが、天気がよくて室温が高くなるとボツボツ出てくるのである。目覚めたとき、あるいは寝ようと思ったときに壁やベッドに這いつくばっているのが目立つようになる。
とくに厄介なのがあのカメムシで、箒で掃いたりしては退散いただく日が続く。

この3月を待たず外に放り出された虫たちのその後は杳としてしれないが。