命がけ

恋猫の毎度顔変へやつてくる

不思議だが毎年違う顔の猫が渡ってくる。

12メートルの広い道路を日に何度も越えては来るのだから、文字通り命がけの恋である。
二、三年前には何を焦ったか車の前を横切って落命したのがいる。目撃したご近所の奥さんに頼まれて様子を見に行ったのだが、駐車場にまでたどり着いたはいいがそのまま絶命したようで、街の係に頼んで後始末をお願いした。
その子は毎日のようにやってくるおっとりとしたキジ虎で、肉付きもよく誰かに飼われていたと思われたが、首輪もなく飼い主に知らせることができなかったのが悔やまれるところである。
餌をくれる飼い主がいたとしても外に放たれている以上野良同様で、昔から野良は宿命上長生きはできないようになっている。
代わって今年はさば白がやってきた。
避妊したみぃーちゃんにご執心ので、雨の中でも追っ払っても追っ払ってもやってくる。道路の反対側にむけて追わないように気をつけているのだが、振り回される日々が始まった。

辛抱

一瞥を捨てて恋猫過ぎりけり
叱られて雨に降られて春の猫

出没するようになってきた。

一般に猫は雨を嫌うので今日のような日は確率が低いが、それでも雨の隙間をねらってやってくる。
年によっていろいろな雄猫がくるが、今年のはキジ虎でそれなりに体格はいいのでどこかで餌をもらっている奴だろう。こいつはあまり頭がよくないようで、近づけば必ずみぃーちゃんを呼ぶ声をあげるのですぐ発見されてこの家の主人に追っ払われるのである。ときにはみぃーちゃんハウスに入り込もうとするので油断がならない。
花粉が飛び交うシーズンが終わるまでは毎日のようにつづくので、しばらくは辛抱の期間である。

叱られて

恋猫の不法侵入こりもせず

追っても追っても懲りずにやってくる。

多い日は五回もあった。
その度に「こらっ」と叱るとすごすご戻ってゆくのはかわいいが、うちの子は避妊猫であるのを知ってか知らずかなんともあわれなことである。
今夜はもう一回来そうであるがどうだろうか。

横取り

領外に野宿いとはず恋の猫

ふだん見馴れない猫がみぃちゃんのいつもいるところに昼寝している。

ここ数日、夜になるとうるさくやって来る奴の正体はこいつだったようだ。
みぃーちゃんは恋の相手にはなれないので、図々しく寝床を横取りしたようだ。
一喝すると慌てて逃げていったが、明日もしつこくやってくるかもしれない。

ふてぶてし

一瞥をくれて再び恋の猫

家猫を飼っているせいか、今頃になると雄猫がうるさくやって来る。

ことのついでに、匂い付けもしていくので臭くて仕方がない。
トイレの砂などを入れた袋を外に置いておくと、そいつめがけてシュッと吹きかけていくのだ。
この時期の匂いは相当強烈で、すぐにそれと分かる。
で、対策として大きなゴミ入れのダストボックスのなかに、用済みの砂袋を格納するようにしたのだが、玄関脇などに置くのはどうにもみっともなくて仕方がない。かといっていちいち不便な場所に置くのも何かと面倒である。
この季節だけの辛抱かと思って、やり過ごす他はない。
そうこう言っているうちにも、不敵な顔をした雄猫がやってきて、人がいると知るとフンとこまっしゃくれた風に通り過ぎていくのがふてぶてしい。

一度きりの青春

恋猫の深傷舐めてこともなげ
恋猫の傷に見合ひしもの得しや
恋猫の深手と見ゆる傷なめる
恋猫の傷の意外に深手なる
恋猫の深手ものかは出撃す

季題は「恋の猫」。

「恋猫」は傍題であるが、「うかれ猫」「春の猫」「孕猫」「猫の恋」「猫の妻」など他にも多い。
今でこそ野良猫や放し飼いの猫は嫌われるが、かつてはどこの町にもいて春や秋ともなると悩ましい鳴き声や争いの声に眠りを妨げられたものである。
なかには深手ものかは傷を丹念に舐めてはまた伴侶を求めて彷徨するものもいて、なんとなくライオンの雄とおなじく哀愁を帯びた野生を感じたものである。

昔普段おとなしいトラ猫を飼っていたことがある。彼がある日突然姿をくらまし、家族をずいぶん心配させたが3,4日して憔悴しきった姿でもどってきたことがあった。その後去勢手術を施したのだが、さて彼の恋は成就したのかどうかそれは分からないが、一度きりの青春であったことは間違いない。

恋の季節

恋猫に耳そばだたせ家の猫

そろそろ猫の発情期。

毎度お騒がせの季節だ。
ただ,最近は市街地の野良猫も嫌われてか数を減らしているようで、昔ほどはあの切ない声を聞くことは少なくなった。飼い猫はおろか野良猫も地域団体などがどんどん避妊・去勢もしているので、昔からいる猫たちはしまいにはいなくなってしまうのではないかとさえ思えてしまう。

当地では野良猫を可愛がる農家などもあって今でも彼らの健在ぶりを発揮しているが、その雄猫の狂おしい声を聞いて、床暖房にだらしなく昼寝していた家猫どもはさっそく反応し耳を立てるのだった。