休息場

春の水たたへ用水池青し

たえまなく流れ込んでいる。

溜池の水位は今年も安定しているようである。ゆたかな池の中央にいくほど青さがまして美しい。
静かな水面にはただ一羽だけ鴨が羽根を休めている。帰るにはまだ早いのだろう。
やがてあと一か月もすれば鳥たちの姿は見られなくなるはずである。
冬から春にかけて渡りの鳥たちの休息場になっていた池は、梅雨入りする頃までには満水になって下の田をうるおす。大和川へ還すまでしばらくお山にふった雨をあずかっているのである。

梅日和

飛火野に春の水ゆく細川

奈良公園の梅が盛りを迎えている。

気象台の標準木の梅もここ片岡梅林にあって、すでに満開を通り越していた。今日は立春だがすっかり暦を追い越しているわけだ。おりしも明日からは寒さが戻るという話だが、今日は能く晴れて風もなく文句なしの梅日和。
飛火野に足を伸ばせば、広い枯れ野を貫く小川もきらきらと春の日を浴び、童謡にあるごとくさらさら音をたてて流れている。
顔を上げれば末黒野となった若草山がそこにある。
大きな景色をしばし堪能して句座に着く。

寒いが日が伸びた

氷室社の手水あふれて薄氷
手つかずの森はすぐそこ春の水

奈良町、奈良公園の水という水はすべて凍っている。

東大寺前の鏡池は文字通り氷面鏡となって、松落葉を閉じこめている。
鹿たちの沼田場も凍りついて、春日の森から流れてくる水はふだんから多いようであるが、その一部も氷が張って鹿はその隙間の水を飲んでいる。
薄氷、春の水と季語としては春のものだが、奈良は真冬の底にある。
何とか春を見つけようと二月堂に向かったものの、修二会の準備作業も今日やっと始まったばかりで、春と言えば二月堂下の屋敷の塀越しにいく粒かの紅梅を発見したくらい。
修理を終わり、三年ぶりかで帰ってきた不空羂索観音さまにお会いしたが、残存のお堂としては最古の堂は底冷えがして10分とはいられないくらい。

それにしても日が随分と伸びたものだ。
吟行から帰ってきても外は十分に明るい。