生垣を借りて宿借る初時雨
目の前に翡翠ブルーが走った。
久しぶりに見る。
翡翠というのは、それこそいつものように、突然に現れて気がついたときにはもう視界のかなたに消えてしまうものである。後を追って川沿いを探ってみたが、案の定二度と見つかることはなかった。
この時期は親を離れた今年の雛が安住の地を求めて放浪する季節。餌場が確保できなければこの冬が越せるかどうかの瀬戸際である。
覗いたところ魚影も見られない小さい川ゆえ、こういう時期しか遡ってこないので、遭遇する機会があると言えばあるのだが。
時雨が小止みになって再び歩き出したところでの遭遇で、雨に濡れていることもすっかり忘れるほどの至福の時間である。翡翠ブルーというのはなぜか人の心をときめかせる幸せな色である。
急に冷えて、すでに晩秋あるいは初冬の趣。今年の初時雨となった。