幸せの色

生垣を借りて宿借る初時雨

目の前に翡翠ブルーが走った。

久しぶりに見る。
翡翠というのは、それこそいつものように、突然に現れて気がついたときにはもう視界のかなたに消えてしまうものである。後を追って川沿いを探ってみたが、案の定二度と見つかることはなかった。
この時期は親を離れた今年の雛が安住の地を求めて放浪する季節。餌場が確保できなければこの冬が越せるかどうかの瀬戸際である。
覗いたところ魚影も見られない小さい川ゆえ、こういう時期しか遡ってこないので、遭遇する機会があると言えばあるのだが。
時雨が小止みになって再び歩き出したところでの遭遇で、雨に濡れていることもすっかり忘れるほどの至福の時間である。翡翠ブルーというのはなぜか人の心をときめかせる幸せな色である。
急に冷えて、すでに晩秋あるいは初冬の趣。今年の初時雨となった。

負荷

しぐるるや架けある豆の莢しずく

もうずいぶん乾いたなと思う豆稲架に無情の雨。

例によってどこへも行かず一日家で過ごす。
運動不足解消にと階段を何往復か試みるが、ガタの来ている太股が長く保たないようである。息も上がるしすぐに終了となるも、体も温まっていい運動になった。
この冬も出不足がちになりそうだが、ちょっと負荷がかかる程度の運動はやはり必要だろう。

横殴り

雨柱走るを身たり遠時雨

今日の午後、寒くて重苦しい空には低い雲が盆地南部を覆っている。

三輪山のある桜井のあたりは横殴りの雨柱が何本もたって雪時雨が通っているようだ。さいわい当地はめったに時雨の通り道に当たらない、不思議と雨や雪の少ないエリアである。
日中の気温は6度に届くか届かないかという真冬のもの。
春と呼べるものは今のところ目には入ってこない。

ふりず降らずみ

時雨るるや携帯電話ふるはしめ

家を出たとたん雨がぱらぱらときた。

傘をとりに引き返してもいいのだが、空を見上げると通り雨のようである。そのまま歩いても問題なさそうな雲でもある。
その後何回か降ってはやみ降ってはやんだが、結局たいした雨でもなく今日のルーチンを終えることができた。
ただ、風が強いのでウィンドブレーカーにあたる雨の音が大きい。ポケットの携帯電話が鳴っても気づかないレベルだった。

気性荒い天気

夕時雨過ぎて夕星かはりなく

県内ではゲリラ的な雨や雹がふったようだ。

当地も、凄まじい音とともに大量の雨が道路を叩く。
二度ほど時雨が過ぎたようだが、夕方の激しい雨が去ったらたちまち西のほうから晴れてきて星が見られる。
ただ南東方面は黒い雲がおおって、ときおり遠くに稲光がする。
気性の激しい天気である。

二十度越え

傘開く間もなく去りし時雨かな

天気が心配だった今日の吟行。

句会終了まで汗かくくらいの陽気な天気に恵まれた。
途中木の間よりぱらぱら雨が落ちてきたが、傘を開くまでもなくあっけなく立ち去ってくれた。
風鎮めの神らしく龍田の大神は穏やかな日和を恵んでくれて、風もないので紅葉の散るゆくさまは見られず、境内をふわふわ綿虫が飛んでいる。

綿虫や龍田峠の越えがたく

龍田古道は、風もないのに銀杏がはらはら散るばかりであった。

捨てたものじゃない

しぐるるや虹示現する峰の寺

目まぐるしい天気の変わりよう。

雨脚が遠のく頃合いを待って外へ出たら、脊山・信貴山をおおうように虹が立っている。
虹本番の夏でもめったに見られないほどの、太く、くっきりと輪郭もたしかなもので、しばらく車を発進させず見とれていた。
大和川まで降りてきて振り返ると、もうお山には虹の跡形もなく全体に日があたっているいつもの光景だった。
まことに時雨らしい時雨である。京都は時雨の名所だと言うが、なになに、初冬から何度もしぐれる奈良も捨てたものじゃない。