呻吟

数百里離れた人と月を見る

珍しくよく晴れたこの日。

全国ではどうだろうか。
秋とは言え、ややうすいもやがかっているようで、澄みに澄んだというものではなかろうが、それでも昨夜見た月から想像するに今日はさらに大きくて明るいものとなるであろう。
十五夜というのは夜八時頃から白く輝きだすので、あとしばらくすれば全国多くの人と一緒に見上げることになるにちがいない。とくに、俳句をやる人にとっては特別な夜なので多くの俳人が感動を言い止めるべく呻吟することになるだろう。
静かに月を見られないのが俳人である。

何度も

湯浴して復た見る月の中天に
湯上がりを待ちて月見のうち揃ひ

今年の月は皓々として澄んでいる。

天気が心配されたが、ゆったりとした時間の中で何度も仰ぎ見ることができた。

闇深し

月天心路地の庇の闇深く

京都には路地が五千あるそうだ。

地元の人は「ろおじ」と呼ぶそうであるが、なかには路地自体が私有地になっており、その路地をはさむように町家が並ぶ。そこに迷い込むとまるでタイムスリップしたかのような別世界が広がることもあり、入り口に立つとのぞき込みたい誘惑に駆られそうだ。

月が天心にかかり、せまい路地の石畳が照らされた。深い軒の庇に覆われた闇がますます深みを増した。

女坂

胸突きの坂や雲居の月明かり

駅から帰るには急坂をひとつ越えなければならない。
男坂と女坂の二通りあるのだが、酒の入った宵なら当然女坂を選択する。
先日もあえぎながら登っていて、ふと顔をあげたら、月にかかる雲までが酔いも醒めるほど明かるいので息を整えつつ眺めていた。