酒の神

神鶏の斎庭に遊ぶ神の留守
大杉玉掛け替へなって神の留守

神鶏は石上神宮、大杉玉は大神神社。

14日に大神神社で全国の杜氏・酒造家が集まって無事な醸造を祈願する酒まつりが行われ、その前日には大杉玉が掛け替えられた。
酒造家は神社からいただいた杉玉を軒先にかける。
「うまざけ」は三輪にかかる枕詞で、三輪さんは酒の神さま。境内の巳さまには酒と生卵を捧げてご利益を願う。

山辺の道・正暦寺は今紅葉が盛りだが、ここは清酒発祥の地として知られる。

水に恵まれない大和なので、今でこそ大量には生産されないが、王権が集中した往時にはおおいに生産・消費された酒王国であったはずである。

11月の不思議

乳根垂る古木守れる神の留守

十一月になるといつも不思議に思うことがある。

七五三の神参りである。
この月は神無月で八百万神すべからく出雲に出払っているのに、誰も疑うことなく拝殿に畏まってお祓いを受けている。
結婚式だってそうだ。ハイシーズンだから一日に何組もこなす神社もあって、みな平気で式を済ませている。
どれもが神さまがいなくては具合が悪いので、きっと留守番役の神さん、代理神さまがいらっしゃるのだろう。

考えてみれば、神社では古木などが御神木として崇められているわけで、御神木は移動ができないから目に見える代理としてその役割を果たしているのかも知れない。

葛城の一言主の神さんのところでは、御神木の乳銀杏が見事な黃葉を光らせて留守を守っている。

留守番の鶏

宮鶏の声おほどかに神の留守

今日は石上神宮吟行。

乗り換えに行き違いがあってスタートからして大遅刻。30分足らずの吟行ではとてもじゃないが満足行くものが詠めるはずがない。
救いは、鳥居をくぐるとおびただしい神鶏たちが目につくことだった。どれも美しい鶏たちだったが、とりわけ東天紅という種類だろうか、尾の長くて砂地を引きずりそうな鶏が優美に何度も自慢の喉を聞かせてくれる。宝剣の七支刀が県立美術館に貸し出し中のうえ、主神以下全員出雲にお出かけの神無月、しかもこれぞ小春という日だからだろうか、みなのんびりと境内を行き来しながら、ひなたぼっこを楽しんでいるようかのようである。

当日の句会はさすがにこの神の鶏を詠んだ佳句が多い。多すぎて、どれを採っていいやら判断にも困ってしまうほどであった。