繰り上げ

あまねくも海無し県の秋日かな

好天吉日。

真っ青な空。
気持ちいいほど晴れた。
あと数日はもつということだが、この間にやれることはみなやっておきたい。
何しろ日がだんだん短くなって、いつもの「帰ろう」放送が今日から五時に繰り上がった。
当町在住の作者にちなむ「きらきら星」が、有線放送で各地区一斉に流れることになっている。子供たちへの声かけの一種だが,春からの半年は午後六時。日の長さによって使い分けしているというわけだ。
いつもより早い放送に思わず時計をふりかえったが、今日は十月一日ということにあらためて気がついた次第である。

ガラス戸のえくぼ

波打てる玻璃に蟻つく秋日かな
大正の玻璃に蟻つく秋日和

再度、吉城園の話。

受付を通ると最初に顔を見せるのは池の庭園と、その西にあって東に向かうように建つ本座敷からは池やその背後の築山がながめられ、そしてその築山の向こうに若草山、三笠山を借景とした贅沢な構えになっている。
この本座敷の三面は、濡縁で庭園につながり、それぞれ大きなガラス戸の内に広縁があって光をあまねく取り入れるような設えになっている。目玉はガラス戸で、これがすべて手作りの一枚ガラスなのだ。
大正の頃の作だと聞いたが、まずガラスの円筒をつくり、それを縦に割いて、再び接合して作るのだという。大変手のかかったものだが、当然どのガラスも均質ではなくて縦の波があり一つとして同じものはない。なかには製作の過程で生じた「えくぼ」みたいなものが所々あってさらに微妙な変化をつけている。
磨き上げられたガラスとはいえ、わずかに波打った表面は虫でもすべり落ちることなく大きな黒蟻が這い登っていた。

ガラス戸の内は外から丸見えだが、ガラスの微妙な凹凸により見る角度によって、これまた微妙に揺れて透ける。
庇は深いが、この時期ともなると濡れ縁はもちろん、中の広縁にまで木洩れ日が届くようになっていて、その影にもまた微妙な揺れが生じているようだ。

蟻は夏の季語だが、この場合は季重なりではないだろう。

関西花の寺十八番

木漏れさす秋日の像の風化せる
石仏の径に木漏れる秋日かな
露けしや閼伽井の小屋のかたぶきて

今日、明日と台風の影響で雨だというので、昨日奈良市白毫寺に行ってきた。

白毫寺の石仏の路 秋日がやさしい

志貴皇子の別邸跡を寺としたと伝えられているが、はっきりとした確証は得られていない。
ただ、ここも鎌倉時代に叡尊が再建した真言律宗の寺の一つで、本尊の阿弥陀如来坐像をはじめ多くの重文の仏像があるほか、境内には多くの石仏が点在し、本堂奥の「石仏の路」といわれる径には癒やされる思いだ。
春日山の南、高円山の麓の小高いところにあり、西側によく開けているので奈良盆地が一望できる景勝地である。大社から新薬師寺、そして白毫寺へと続く道は山辺の道にもなっていて人気コースである。

花の寺としても知られ、関西花の寺二十五ヵ所の第十八番として春には天然記念物の「五色椿」と秋の萩が有名だ。
お寺自身のホームページはないようなので関西花の寺のサイトを紹介しておこう。詳しくは、WIKIのページのほうがよさそうであるが。

日の暮れるまで

キャッチボールの児らに秋日傾きぬ

もう陽が沈みかかった公園を通りかかると、キャッチボールする子供たちの声が聞こえてきた。
どうやら、父親が野球の基礎を教えているらしい。
子供らも熱心に聞き入っては練習に余念がない様子。
Until the dark.