安全地帯

水瓶に響き妙なる雨蛙

マイ畑にも青蛙が居ついている。

おおきな水瓶を並べて雨を溜めたり、運び込んでるのだが、その近くは手が入りにくいこともあって草蔭に覆われている。当然餌となる虫も多いだろうし、蛙にとっては身を隠すには格好の場所なのであろう。行けば必ず顔を出して、たいして慌てるでなくこちらの様子を伺っている。
今日はどうしたことか、水瓶のなかに入り込んでいるようで、箕をかぶせてある瓶のなかではよく響き合ってつねよりいい声を聞かせてくれる。とうとう引きあげるまで瓶の中でずぼらを決め込んでしまった。彼あるいは彼女にとっては居心地がいい安全地帯なのであろう。

背に聞いて

雨蛙泣きて一山雲の急

急に鳴き交わしが始まった。

断続的な小糠雨に一日つづいたが、蛙のほうは喜んでいるのかそうでないのかよく知らないがときどき存在を知らせるように啼いている。
信貴山のなだらかな麓を細くて深く切れ込んだ流れが落ちてゆく。このところの雨で水量も多く水音も高くなっているが、蛙たちの声がそうした切れ込んだ谷間に響き合うように大きく聞こえるのである。
土に向かいながら、晴れれば鶯、雨もよいの日には蛙の声を背に土と向かいあう時間が豊かに流れてゆく。

水嫌い?

一声のありて斉唱雨蛙
雨蛙いとふ如雨露の雨なりし
曇天に鳴きみ鳴かずみ雨蛙

雨蛙は不意の雨を嫌うようだ。

庭に居着いているのが、ランなどに水をやろうとすると慌てて姿を見せて逃げ出す様がこっけいである。
いかにも雨など水を喜びそうに見えてそうではないのが何とも可笑しい。
複数の雨蛙がひそんでいるようで、一匹が鳴き出すと相呼応して他のやつも鳴き出す。
秋の虫だけではなく、夏の蛙も合唱するとみえる。

雨雲レーダー

雨蛙防災アプリの雨意急と

スマホの防災アプリがなかなか便利である。

現在地付近に雨雲が近づくとアラームを発してくれて、画面をのぞくと六時間先の予想まで教えてくれる。
最近は30ミリ程度の雨はざらななので、少々の量では驚かないが、洗濯物がまだ干してあったり、外出予定のある家人にも教えてやることができる。
今日も先ほどアラームが鳴ったが、たしかに空が少し暗くなってきたような気がする。このままならいくらかパラパラ程度は降るかもしれない。

適量

雨乞ふは汝のみにあらず雨蛙

夜になっても蛙の声が聞こえてくる。

近くの田圃からのようである。
そのせいだろうか、ここ数日雨のよく降ることと言ったら。梅雨本番というところか。
田植えが終わってたっぷりの水が欲しい田圃にとっても、雨は望むところ。
首都の水瓶も雨が欲しいだろうし、出水の被害が出るような雨は困るが、欲しいところに欲しい量だけ降るのが理想だろう。

誰がものにするか

遠鳴けば近けたたまし雨蛙

紫陽花苑に入ると雨粒が落ち始めてきた。

順路は青竹の垣にそって行くわけだが、鎌倉・明月院の階段よりずっと狭くて腰や袖の辺りが衣服を濡らす。順路を設けた理由はどうやらそんなことにあるらしいとは吟行が終わってから気づいたことだ。
この順路は山の中腹を巡るように設えてあるが、ちょうどいい具合の谷筋に入ると、石の階段は滑りやすく足下ばかり見る紫陽花狩りとなった。
それでも、下から上ってくる順路に目を落とすと、とりどりの色の傘が紫陽花に見え隠れしながら上ってくるのが見える。こういう場合、地味な傘というのは絵にならなくて、やはり思い切り派手なものを選んで持ってくるほうが似合うと思う。しばらくそういう構図を待ったが、なかなかチャンスは訪れず吟行の途中でもありあきらめることにした。
また、この谷には大きな山法師の木があって、おりしもの満開は辺りを灯すようにも思えた。

紫陽花苑の山法師

順路巡りも一段落し、さてどうしたもんじゃろうの〜う、なんて句作の構想に耽っていると、谷筋の向こう側から蛙の声が聞こえてくる。聞こえたかと思ったら、すぐ目の前の辺りで大きな声で応えるものがいて。そうすると、まるで示し合わせたかのように、あちらこちらから代わり番こに輪唱が始まって、一同目を合わせて、「やるか?」という顔である。
ここで「やるか」というのは、これを句にするということであり、さても午後の披講が楽しみとなった。

天に代わって

吊鉢が仮の庵や雨蛙

住宅地に隣接する田の方向から蛙の声がさかんに聞こえてくる。

確認したわけではないが、おそい奈良盆地の田にもようやく水を張り始めたのではないだろうか。
そう言えば、いつもなら庭で声を聞かせてくれる雨蛙君の鳴き声を聞かないし姿も見かけないので、何処かへ行ってしまったか、死んでしまったに違いない。

そんなことを考えていると、今日ひょっこりと顔を見せてくれたのである。いつものようにランの棚に吊ってある鉢に水をやっていたら、半緑色の衣装に身を固めた一匹がこっちを向いているではないか。
鉢は冬の間は部屋に取り込んでいるので、春に外へ出したらいつの間にかやってくるという彼(または彼女)にとってはお気に入りの場所らしい。毎年寒くなるといつの間にか姿をけしてしまうが、よもや鉢の中で冬眠しているのではあるまい。

今日もまた真夏日に近く、例によって奈良盆地には雨がなかなかやってこずゲッゲッゲッという予告もまったくないので、それまでは毎日天に代わってせっせと水分補給してやらなきゃね。