解放

おだやかに鳴き暮れてゆく里の鵙

夕暮れまでの一時間ほどが勝負の野良仕事。

日中は暑くてとても出かける気にはならない。今日も畝一本整えるために汗を流したが、まだ本格的な恋の季節には早いのか鵙がのんびりと鳴いていて、いかにも野良日和という風情にひたることができた。
日が信貴山に落ちてあたりが影に覆われはじめるとやっと暑さから解放される。
九月も半ばにさしかかろうというのにである。

里の秋

鵙巡り大和平群の畑日和

穏やかに鵙が鳴いている。

聞くとはなしに耳に届いてきて平群の里はのどかである。テリトリーを侵すライバルが現れないようで、周期的にテリトリーを巡視する声も急を告げるものではない。
まさに里の秋の真っ只中の平群である。

今を生きる

鵙猛る里に日の落ちなんとして

駅を降りるとけたたましい声が聞こえる。

駅の近くに広がる里山に日がまさに落ちようとしている時刻、縄張り争いの鵙の高鳴きである。どこかの木の天辺付近で鳴いているのだろうが、目をこらしても見つけられない。残照にハイライトを浴びるようにまぶしいので、両手かざしに見回すが相変わらず高鳴きはやまない。
すっかり日が暮れるまであの戦いは続くのだろうか。見届ける余裕はないが、彼らも今を生きるのに精一杯なのである。

陳腐化

VHFアンテナ高く鵙猛る

鵙の季節になったようである。

今日などはもう使われなくなったVHF、アナログ放送用アンテナに止まってテリトリーを高々と宣言しているのを目撃。
田んぼに接した住宅街なので、住宅地の高いところと言えばテレビアンテナが格好の物見場所なのである。
デジタル技術が進んで商品がどんどん陳腐化する一方で、秋になれば毎年自分のテリトリーで雄叫びをあげる鵙の習性は変わらないのである。

一喝

寝過ごせし朝を鋭声の鵙叱る

虫食いのように更地が残されている宅地。

そんな、なかば街と化しているところにも鵙が巡回してくる。各家のアンテナに止まり、電柱に止まり、律儀に自分のテリトリーを宣言しているようである。
これまでは漫然と聞いていたが、耳を澄ませて聞いてみると、鵙の高音は婚活期間であるという理由のほかに、秋独特の澄みきった空気とも響き合っていることがよく分かる。考えてみれば当たり前のことだが、建物やあたりに鋭い声が響き渡る朝はことさらその感が強いように思われる。
先日も、ちょっと寝過ごして新聞を取りに出たら、寝ぼけ頭を一喝するように頭上から鵙の声が降ってきた。

ルーチン

巡察の鵙のまた来る律儀かな
巡察の梢に鵙の幾たびか
高枝の鵙の尾羽ふり飛ぶ構へ

同じ場所を巡回しているようだ。

観察していると、一日に何回も同じ枝に止まり、高鳴きし、尾を振るわせては次の枝や屋根に飛んでいく。
テリトリーが確定するまでは気が抜けない日々なんだろうな。
逞しく、しかしどこか哀れでもある。

里の秋

竹林の高みに鵙の標を宣る

秋が来たんだとしみじみ思った。

稲淵の棚田を歩いていたら、突然鵙が鳴きだしたのだ。飛鳥川の縁にかかる竹林の一番高いところに止まって、高々と縄張り宣言しているようだ。
鵙の声というのは、ドラマでもそうだが里の秋を表現するには一番効果的のように思う。

鵙はひとしきり鳴いて、また縄張りのどこかに飛び去った。