愚直な大家

執筆も客をむかふも炬燵かな

2DKの公団アパート。

六畳の居間の半ばを占める炬燵に先生はいつも座っておられた。
そこへ同じ市に住む小生が担当となって毎月玉稿をいただきに伺うのであった。
先生は「最後の文士」と言われるような武士然とした佇まいとはうらはらに大変好奇心が旺盛な方で、若輩の私にも次から次へと質問を浴びせてこられあっという間に二時間ほどが過ぎてしまうのだった。
若い頃騙されてサハリンの缶詰工場に売り飛ばされたり、左翼思想に傾いたかと思うと弾圧であっさりと転向してしまうなど波乱に富んだ人生だが、その愚直ともいえる生き様が先生の魅力となっていて、とくに講演会などでは諧謔に富む話にだれもがその人となりに魅了されるのであった。
一作家の本を題材に毎月一作品、二年間原稿をいただいた「名文鑑賞」という欄が、その後福音館書店から「文章教室」という著作で出版されたのは私にとっても忘れられない思い出となった。
先生の名は八木義徳。平成11年11月没。享年89。
検索すると先生の年譜があったので紹介する。

“愚直な大家” への5件の返信

  1. 八木義徳、初めて聞く名前です。師は横光利一とか。
    私は誰かから紹介された本を読むのが好きでその本に感動するとまた誰かに紹介したくなる。
    その際に読んだいきさつを忘れてなぜこの本を読んだのかと後になって不思議に感じることがある。
    そう言う過程も記録しておくと良いのですが・・・
    先日もあまりの感動にそういった本をプレゼントしたらえらく喜ばれこちらが恐縮してしまった。
    その際なぜこの本を読んだのか誰からどのような経緯で紹介されたのか思い出せなくイライラした経験がある。
    今回も年譜から知った本を少しずつ読み進めていきたい。
    そしてhodakaさん紹介と記録したい。

    1. 先生の人となりを知るうえで、自伝的要素が多い作品が含まれている「摩周湖・海豹他五編 旺文社文庫」(劉廣福、母子鎮魂、私のソーニャも含みます)、「私のソーニャ・風祭 講談社」(劉廣福も含みます)などがとっかかりとしてお奨めですが、さすがに簡単には手に入らないでしょうね。
      先生は典型的な私小説作家ですから、ご自分の体験がベースになっているのがほとんどです。人柄が滲み出てくる作品からも先生の愚直な生き方がうかがえます。
      図書館などで見つかればいいのですが。
      「文章教室」は誰もが読んだことのある作品を取り上げてますが、先生独自の視点にたった解説に目が開かれる思いでどれももう一度読んでみようかなと思わせてくれます。

  2. 名古屋市図書館で検索をかけてみましたが全集初め30冊余があります。
    全集のどこかには納められているかもしれませんのでまた詳細を調べてみます。

  3. 執筆も客をむかふも炬燵かな

    寒いこの時期、ほだかさんの日常句かと思いきや、著名作家との交友があっての一句なのですね。
    サハリンとか缶詰工場と聞きますと、最近読んだ「終わらざる夏」浅田次郎を思い起こします。
    「壬生義士伝」同様、岩手弁がベースになる作品ですが、千島とカムチャッカが対峙する占守島が舞台となります。
    無条件降伏後、繰り広げられた闘いの記録です。
    特にソ連の側からも、書いているのが特徴で、戦地に送り出す場面は双方のお国にあったということ。
     その際に歌われた、ロシア民謡の「ともしび」なんかの哀調を帯びた歌は、きっと日本では「女々しい」と却下された事でしょうね。

    1. その本は読んだことがありませんが、地図で見ても国後と標津は指呼の間。のど元に突きつけられた匕首のような近さです。国と国との押しくら饅頭の最前線は厳しいものがあるのでしょうね。

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