蚊の襲来

打水の念には念を入れてまた

打ち水をする端からタイルが乾いてゆく。

少しでも涼をとろうと、とくに西日が強い玄関まわりを中心に何度も水を打っている。
これがここ数日の夕方の日課であるが、暑さとの戦いでもあると同時に蚊との戦いでもある。
腰に蚊取り線香をくゆらせながら。

気合いだ、気合いだ

片陰を遮るもののゐたりけり

午後の日差しが強烈だ。

とくに11時から2時頃までは出歩く気がしないが、やむを得ず外出するとなれば自然に陰を選って歩いている。
ただ、2時をまわって3時とか4時頃となると陰も十分できて、少しの風の後押しがあればずっと楽になる。
今日も今日とて、上り返しの一番少なくかつ陰の多いルートを選択。
息も上がらず無事帰宅となった。
それにしても、この暑さ、当分続くことを思い合わせると念力の緩まぬように「気合いだ」「気合いだ」とムチを入れつつ、八月を迎えることになる。

いじめる

ひび走る水無月の田となれりけり

極暑の帰路についていたら、青田がすっかり干上がっているのを見た。

水無月を今の六月だということも多いのだが、文字面でいけば炎暑のために水が涸れて無くなる月、したがって梅雨が明けた七月の今ごろとするほうよほどしっくりする。
ただ、農家の知人の話では、根張りをよくするためいっとき水を断っていじめることがあるようであり、もしかすれば今日見たのはそういうことだったのかもしれない。というのも、田の脇にはいつも山の溜池から引いた水が豊かに落ちているので、水不足ではないはずだからである。
風の抜ける隙間がないほどにびっしりと育ち、稲の花が咲く日も近い。

締め切り直前

汗しとど人身事故のわりくうて

突然車内アナウンスがあった。

「XX線で人身事故発生」。
幸いにも、乗った電車は別路線でことなきをえたが、XX線を利用している人は多い。句座の仲間でも何人か相当して、たまたま一電車のちがいでセーフかアウトか。
通常は1時間か1時間半くらい前に着いて席題など検討するのだが、投句締め切り30分前にかろうじてやってきた彼女は、さんざんな目にあった顛末を語る時間もなく投句用紙に向かい合うが、汗が滝のように流れてくる。
隣に座った句友が横から扇子で風を送るなど細かな配慮がやさしい。

頭を涼しいせよ

名瀑の風になびかぬもののなく
大滝の風が風呼ぶ飛沫かな

結社の例会は兼題句会である。

題がふたつ、出句は七句。
四ヶ月全敗を、先月ようやく入選。
今月はかろうじて並選二つ。
兼題というのはおよそひと月考える時間があるのだが、これが僕にはかえっていけない。
というのは考えすぎて、あれやこれやとやっているうちに、頭でっかちの句ができたり、言いたいことが余るあげく誰にも伝わらない句になってしまうのだ。そこで、先月から前日まで何もしないと決めたら、たまたま入選という結果を得た。
掲句は、入選句ではないが自分では気に入っているもののひとつ。
滝飛沫をあびて涼しくなりたいものだ。

幟さびしく

長雨に馴染むプールの閑散と

町営プールが閑散としている。

夏休みに入って最初の週末も台風がわざわいし、プールサイドのこなもんの幟幡も心なしか重たげである。いつもなら、爺婆が孫を連れて賑わうのだが、梅雨が長かったせいか今年は出足がもうひとつみたい。

当たり外れ

思はざるフォークで西瓜掬ふとは

西瓜はがぶりかぶりつくもの。

そして種をぺっぺと吐き出すもの。
それが、いつしか専用の先割れスプーンで種を掻きだし肉を削って食う。しまいにはメロンのように刻んでフォークで食うとは。
プランターの小玉西瓜がめずらしくうまくできて、早速試食した。
皮近くまで熟して意外に甘いが、市販の西瓜ではここまで多くないだろうというレベルの種がぎっしり。こうでなくちゃと種を舌の上で餞別して吐き出した。

メロンは気温26、7度くらい、西瓜は30度を超えて好まれるという。
30度にまであがると体は糖度より水分を要求するらしい。
原産地のアフリカでは何の味もないものだったが、明治以降改良された品種が渡ってくるようになって今のような甘さが加わったと新聞で知ったばかり。
おかげで今では甘さに当たり外れのない西瓜がいただけるというわけだ。