Time flies

春愁や血をあらそへぬ宿痾もて
はらからと同じ宿痾の春愁

遺伝的体質というものだろう。

めったに電話してこないので珍しいと受話器を取れば、長患い覚悟の入院の報だった。
たまたま毎月の通院日にあたったので、用心のため来月の精密検査を予約する。
十年、二十年の長さのあっという間と実感するなか、訃報のニュースの享年も自分の齢とだんだんと近くなってくると、自分もそれほど遠くない将来にはと思えるのだが、どこかでそんなことを考えるのを避ける自分もいるのだ。
こんなことを繰り返して一年、十年はたちまち過ぎ行く。

黄色い杜

まんまると古墳すっぽり竹の秋

いたましいほど竹に覆われている。

県内いたるところにそれとすぐ分かる古墳があるが、その多くが手も入れられず竹林と化しているところが多い。
この時期、産土の杜など、信貴山の麓は黄色くなった箇所が点々と現れ、そこが竹林であることもはっきり分かる。
大和川は西洋カラシナ黄色い花もピークを過ぎようとしていて、代わってカラスノエンドウの紫が堤防の土手を埋め尽くさんばかり。
河原へ降りようとしても、階段がすっぽり包まれてとりつくしまもない。
堤防の除草が待たれる昨今である。

春終盤

芝桜振り返り見て過ぎゆける

道路側に芝桜が咲き誇っている。

三種類ほど植えたのだが、やはり生来の強い弱いはあるようで、薄紫の株が枝を張ってのさっばている。
この種は香りもあるようで、顔を近づけるとかすかに甘い香りがする。
秩父の有名な芝桜の公園へ行ったことがあるが、芝桜には香りというイメージがなかったのであらためて驚いている。
よそのお宅さんでは、鮮やかな赤のものが多いように思うが、これも門前を過ぎるとき思わず振り返って見てしまう。
芝桜が咲けばまもなく藤、桐の季節。いよいよ春の大団円を迎える。
今日はしつこいほど動詞が並んだ句だ。

虫動く

尻まろき蜂の動きをいつくしむ

今年は虫の出が少ないような気がする。

イチゴやレモンに来る虫も見ないし、このままでは受粉が気がかりだ。
ブルーベリーがいっぱい蕾をつけてるが、釣鐘のようにすぼんだ形なので雌しべ雄しべも中に隠れてしまい受粉はさらに難しそうだ。
ところが、今日、突然蜂特徴のうなり声がして何かと思えば、蜂がブルーベリーの鐘に体三分の一ほどを突っ込んだまましばらく出てこないのだ。
いわゆる花バチの仲間で刺す心配はまずない。お尻がまん丸いのが可愛い。近寄って、しばらく観察したが、蜜蜂のように足に花粉をつけてるようには見えない。花粉を集めると言うよりは花の蜜を吸っているようにしか見えない。
家へ入ったらシャツにカメムシがくっついていた。
ちょっとずつ虫の活動も始まったか。

投票日和

雲吐いて春月吐いて神の山

午後九時をすぎて町が静かになった。

なにしろ小さな町に選挙カーが17台も行き来するのだから、そのひっきりなしの往来ときたら。
空を見上げれば、昨日よりはいくぶん春らしい月。色もやや黄味がかって、滲みも少し。
雨が近づけば湿度もあがって潤むような月が期待できるのだが。
明日は雨の心配もなく投票日和と言えそうだ。

春満月

神将のししむら踏める春の闇

ものうい春でもある。

まして今日は平成最後の満月だというのに、こう雲厚くては期待できない。
月が出れば「春の月」一句詠みたいところだが。

雲間にも出よ望なる春の月

家づくり

つばくらめ更地の泥を集めんと

古い家並みの一画が更地になった。

新しい家が建つ気配もないところ、雨でぬかるんだあたりに燕が近づいた。
着地こそしないが、せわしく羽ばたきしながら泥の様子をうかがっている。どうやら巣作りが始まったらしい。
あたりは昔ながらの家が多く、巣作りにも適しそうな家がごろごろある。
さて、どこの軒裏に狙いを定めたのであろうか。