背びれか旗か

へんぽんと旗ひるがえる芭蕉かな

空かぎる 旗や立てたる 芭蕉かな

青々とした芭蕉の葉が風で揺らいでいた。
しなる茎から垂れる葉は魚の背びれのようでもあり、戦国武将の旗印、満艦の万国旗あるいは進水式の大漁旗が大空に揺らぐようにも見えた。
あらためて見ると芭蕉の葉というのは大きいものだ。

涼を乞う

汝れもまた風待つ空や百日紅

今日も風がなかった。
たまに吹いても、たっぷり熱を孕んだアスファルトを撫でてくる風は息が詰まりそうになる。
街を歩くと百日紅が盛りだが、あの紅い花の群れを見るとさらに暑く感じてしまうのは私だけだろうか。最近は交配品種かどうか、白い花を咲かせる百日紅に出会うことも増えた。これならいくらか暑苦しさから救われるのだけど。

盂蘭盆会

新盆の読経流るる公会堂

多くの命が失われた被災地で合同慰霊祭が営まれたニュースを見た。
なかには、経をよむ住職すら津波によって命をおとされた地域もあるという。
南無阿弥陀仏。

甘い果汁

店頭の試食メロンや肉甘し

スーパーの前を通りかかったら、一口大に切られた試食用メロンが大皿に盛られている。用意されたばかりらしい黄色の肉はいかにも柔らかそうで、瑞々しい果汁が光っていた。

出鼻を挫かれる

広がる積乱雲

広がる積乱雲

行く先を ためつすがめつ 積乱雲

暑いからといって1日中エアコンのなかで過ごすのもどうかと外出しようとしたら、頭上には黒くて大きな積乱雲が傾きかけた太陽をみるみる飲み込もうとしていた。
さらに遠くで雷も鳴っている。
雲の流れからすると目的地の方向には伸びていかないとは思ったが、やはり出鼻を挫かれる格好となった。

土、水、木、草の文化

打ち水もかなわぬ舗装道路かな

あの暑さがまた戻ってきた。
陽が落ちても、家の周りは昼間の熱をたっぷり吸ってむんむんしている。
鉢植えに水をやるついでに前の道路にも撒いてみたが、やはり10分と経たないうちに元の灰色に戻ってしまった。
都会では季語の実感がすっかり薄れてしまっている。

人間を養うということ

中元を届けし先は鬼籍入る

かつて若い頃生き方や考え方を養ううえで多くの人生の師と仰ぐ人に恵まれてきた。
先生方は文学や美術の世界で名を成しすでに老境に達していた方ばかりだったが、少しも偉ぶるところがなく、若輩の私を人間として対等に扱っていただいたことに感謝するのみである。
先生方は社会人としても教養人としてもすばらしい方々だったので、問わず語りのお話にも示唆に富むことが多く、感化されることが大であった。
盆暮れには直接お宅に伺うことを楽しみとしていたが、ひとり、二人とお亡くなりになり、今ではそういうこともなくなって10年あまりが経とうとしている。