猫語

加湿器の水よく吸うて冴返る

しばらく暖かい陽気に体がなじんでいたのでその反動であろうか。

真冬ほど寒くない気温のはずなのに、やたら冷え込みを感じる。
猫どもも同様のようで、午後四時頃からにゃあにゃあと煩く寄ってくる。暖房をつけろという催促である。

スウィッチオンしてしばらくしたら、みんなおとなしく床に寝そべっている。
この時ばかりは奴らのいう言葉がよく分かる。

おこぼれ

首の皮一重の熟柿冴返る

とうとう最後の熟柿となった。

農道の脇に立派な柿の木があり、毎年実をいっぱいつけるのだが収穫しているところを見たことはない。
自分の身を支えきれなくなった熟柿が、落ちては下の径におびただしく散っていて足の踏み場もないくらいである。
この下を通るときはいつも早足で抜けるようにしているのだが、鳥が啄んでいる時に出くわすとおこぼれをもらいそうで、去って行くまで足を止めて待つ時間となる。
風はまだ冷たいが鳥たちの動きを見ていると飽きないものがある。

ど根性

クリスマスローズ樹下に冴返る

せっかく開いたのに寒さで震えているようである。

クリスマスローズは花期が長く2月から4月ごろまで楽しめる。
ゆえに、名前にクリスマスがついているのが謎である。
もしかすれば暖かい地方では早くから咲くのかもしれないとも思うが。
育てるのはそんなに難しくない。というより、一度植えたらほったらかしでも毎年株を増やして花をつけているようである。西日ががんがん当たる場所で可哀想なくらいだが、ど根性を発揮してくれてる。
去年の暮れ、久しぶりに古い葉を整理してすっきりしてやったら、元気な花で応えてくれた。
明日からまた暖かくなる予報。今度はしばらく暖かい日が続くようで、今年もまた桜前線のスタートも早くなりそうだ。

それぞれの戦い

救急車影甲斐甲斐し冴返る

家の前を日に何度か救急車が通る。

救急車の登っていく先にはおおきなホームがあって、今またそこへ向かっているのではないだろうかと思うことしばしばである。
昨日今日と寒が戻ってくると高齢者には応えることだろう。
患者を救急病院へ送る車両のなかで、ケアしている黒い影が車の磨り硝子越しに見えた。
救急患者、救急隊員それぞれの戦いが車両の中で続いているのだ。

三日月

冴返る君送る夜は月尖る

今日も五、六度しか達しない寒さ。

そう言えば、昨夜通夜の帰りに生駒の西に今しも沈まんかという三日月(正しくは四日月)を見た。
地に近くなると、しかも大阪の夜の明るさが背景にあると、月には澄明さが失われるのだと実感した。
明日も、明後日も寒い日が続くという。
こうなると、冴返ると言うよりは「冴ゆ」と言ってもおかしくはないほどだ。

花籠

ちりぢりに通夜客別れ冴返る
料峭や通夜席甘き花の籠

まほろば句会の選者が亡くなられた。

この一二年めっきり足腰が弱られたが、直前まで元気に投句されて、最後は入院先で九十三年の生涯を閉じられた。
初めて句会というものに参加したのは六年前、都度眼前の季題のとらえ方など丁寧にやさしくご指導いただいたことが懐かしい。
この「料峭」という言葉を教えてくださったのも先生で、寒の戻りが厳しかった今日の風に似合う言葉であろう。
ホールの中は暖房もよく効いて花籠の百合やカトレアなど甘い香りが会場いっぱいに広がっていたが、外との気温差は大きく通夜の儀を終えても誰も語ろうとせずそれぞれ帰途についた。

寒い雨

弔ひのけぶり真白し冴返る

盆地の底冷えのする日は風がない。

盆地の周囲を見渡すと白い煙が幾筋もこもるように昇っている。
昭和の時代、自治体の合併が進まなかった当県では、当然のごとく美化工場、火葬場の統廃合も進んでないからであろう。

昨日一日だけは気温も上がって喜んだが、たった一日で冬が戻ったように寒い。
寒いうえに雨ではよけい寒さがこたえる。