ほんわか

耳遠き人におらぶる刈田道

御年卒寿、くらいと思われる。

暑い夏も毎日のように鍬を振るっておられる。
歳にしては高い方に属する御大はいたって健康体であられる。ただ難は耳が少々遠いこと。
コロナ全盛の頃は大声で話しかけることははばかられたが、いまでは近くまで寄って雑談もしたりできるようになった。
今日は昔からのお馴染みさんとおぼしき人が遠くから声をかける。が、本人には届かない。
そこで、杖を頼らなければ足許が怪しいところを畔沿いに近づいてようやく気づいてもらったようである。
旧交をあたためることしばらく。掘りたてのサツモイモの幾ばくかを土産にお戻りになった。
コロナなどもあって近所でもなかなか出会えない日が続くが、こうして長いおつきあいの仲の会話など聞いているとほんわかとした気分が漂っていいものである。

冬の田へ

屑藁の濃きうすきをく刈田かな

稲刈りが終わって急に寂しくなった田。

コンバインに切り刻まれた藁やら、早いところでは籾殻さえも置かれているところがある。これらはいずれ冬耕、荒起こしによって鋤込まれるのであろうが、水鳥も来ない刈田となっては冬は長い。
この辺りは二期作もなくこのまま冬を越すので、静かなしずかな棚田の景色が広がるのみである。

叱咤激励

馨しのけふあらたしき刈田かな

日中は30度を確認。

ここのところ晴天が続き28、9度近辺でそれほど句にならなかったのが、たった1、2度上がっただけでこれほど暑く感じてしまうのは不思議だ。熱気が漂う菜園ではかぐわしい稲の匂いが全身を覆う。
信貴山から流れ出る水の深い谷に沿って棚をなしながら田が続くが、今日からその一番下の田で稲刈りが始まったのだ。これから順々に上へと刈り取りが進んでゆく。苅ったばかりの田の匂いというのは独特で、稲と稲藁の入り交じったどこかゆたかな香りが辺りを立ちこめて思わず胸を開いて深呼吸するのが心地いい。
今日は虫喰いがすごいことになっている白菜に焼酎と酢の混ぜたものをぶっかけて活を入れてやった。

虫害

あかあかと刈田なめゆく火の走り

田植えが済んだばかりの田に煙が上っている。

火の走った跡は落ち穂や株が黒くなって、ついこの間まで黄金の世界だったとは思えない変わり様である。
先日盆地の田が焼けていると書いたが、実はあれは虫害であることをニュースで知った。うんかの仲間が株元から食い尽くして、これが盆地の広い範囲に及んでいるとのこと。
収穫は例年の半分程度にしかならないとのことで、農家は頭を痛めていることだろう。
早くに田を焼くのは、このような虫に犯された田の消毒をかねているのかもしれないと思った。