散漫

滴りて苔を一脈走りけり

水一滴が貴重な季節。

体が感じなくても水を十分に摂れという。とくに齢とってくると体温が上がっていても鈍感になるので自分では気がつかない危険が忍び寄っているらしい。そのせいか、意外にも室内での熱中症が外よりも多いというデータもあるようである。
昨日、今日あたりは今年一番の暑さ。
昨日はぼうっとしていたわけではないが迂闊にも鎌で指を傷つけてしまった。さいわいたいした傷ではなさそうだが、やはり注意力が散漫になっていたのだろう。
畑では西瓜がごろごろ生ってきて、あと一週間もすれば初収穫となりそうである。そうなると、また冷藏庫に入らないなどの騒ぎになりそうだが、素人菜園とはそんなもの。旬を迎えた野菜たちはこちらの都合にいっさい関わりなく好き勝手に実を生らせていくものだ。
いまのところ胡瓜もがぶりと噛めるし、野菜をおいしくいただけるのはありがたいことである。

鍾乳洞

滴りに銅貨すすぎて詣でけり

暑さが続くと涼しい景がなつかしい。

岩のあいだから染みだす清水、水滴を浮かべた苔類、洞窟の天井から規則的に落ちる雫、などなどどれも体感温度10度は低く感じるのではないだろうか。山にたとえれば標高1000メートルの山頂にいきなり立ったようなものだろう。
ご当地の信貴山に登っても地上とたいして変わらない気温にがっかりもするが、いつのことだったか御在所岳にロープウェイに一気に登ったときは山頂の悪天候もあって寒さに震えた夏もあった。
町営プールも2年ぶりに営業で賑わっているが、もしも近所に鍾乳洞があればいまにも飛んでいくだろう。

天国から地獄へ

滴りの唐檜の針にことごとく
ダムいくつトンネルいくつ山滴る

目的地まであと10キロほどで雨に遭った。

その雨もすぐに止んで、周りの峰から雲が湧いている。高山性の高い木もすっかり洗われて緑の葉が瑞々しい。
下界があまりにも暑いので、あそこなら涼しいかもということで大台ヶ原ビジネスセンターまで出かけた。自宅から約90キロ、時間にして2時間半ほど。川上村と上北山村の境にある伯母峰トンネル手前で分岐して、大台ヶ原ドライブウェイを上るルートだ。
ずっと登りの道だが、サイクリストが多いのには驚いた。9月の休日一日を通行止めにして、ヒルクライム大台ヶ原が行われるそうだが、正気の沙汰とは思えないほどの勾配、そして距離である。
聞けば上北山村の道の駅から2時間以上かけて登ってきたと聞いた。相当な強者でないと見受けた。
終点のビジネスセンターは駐車場も広く、サイクリストのほかハイカーもいれば、登山客も、そして我々のような涼を求めてやったきた軟弱派も。約1600メートルの台地は気温20度で、日陰で風に当たっていると寒いくらいだ。周辺を2,3時間で散策するルートがあるらしいが、ざるそばをいただいて、展示物などを見学したあと下山となる。

盆地は夕方4時と言えど気温38度。気温差18度の灼熱地獄に一気に落とされてしまった。

鍾乳洞

滴りの奈落の底に続きけり

石筍の間を縫うように奥へ進む。

壁の電灯だけが頼りの階段をどんどん降りてゆくと、急に広い空間に出た。
垂乳根のような石灰の石柱がかしこに垂れて、なお雫がおびただしく落ち、夏だというのに寒いくらいだ。