2ndテナーの優男

高麗山の落花せかする雨一夜

思いもかけない訃報が届いた。

それも、亡くなって一年後である。
コロナ禍もあってご遺族は広くお声をかけるのを避けられたのだろう。
友人がたまたま演奏会の案内を出したところ、ご遺族から丁重な返信があったのだと。
大学の同級生であり、男声合唱団の仲間であり、しかも二浪というところまで共通の、テナーの声がよく通る優男。
長年住み馴れた横浜を引き払い、余生を大磯・高麗山の邸宅で穏やかに過ごしておられるとばかり思っていたのだが、互いに賀状出さなくなって半ば音信不通状態のまま。コロナ禍が収まればまたいつでも会えるとばかり思っていたのに。
昨年の花の盛りにこの世を去ったS君に捧げる句である。

平年

野の神の碑なぞる落花かな

夕方から雨になった。

杜の桜は遠目にも褪せてきたが、これが追い打ちとなっていよいよ葉桜へまっしぐらに向かうことになるのか。
それにしては寒さが戻ってきた。というよりは、これが平年の気温なんだろう。今までが暖か、いや暑すぎた。
しばらく平年に戻って静かに春が深まって行くのだろう。
今日は茄子の本葉が出たのをポットに移してあとひと月ほど育苗を楽しむことになる。

當麻寺吟行

雨兆す風に落花のしきりなる

當麻寺吟行の日。

ちょうど練供養の日に当たり、花も期待できるとあって楽しみにしていたが、予報では昼頃より雨。
10時頃山門に着く頃には急に風が変わって、いよいよ雨催いの空である。
仁王門の桜が一陣のつむじ風に巻き上げられて落花おびただしい花吹雪となる。
雨兆す風と落花と。これは句になるに違ないのだが、いまひとつ物足りない。とくに下五が平凡に過ぎるのである。

その答が出句のなかにあった。

雨を呼ぶ落花の風となりにけり

完全に脱帽である。
案の定、主宰の特選となった。

市名の由来は

桜の井一夜で埋む芥かな

古井戸に降り敷く花の吹雪かな

桜井の井に花散りぬ花の散る

落花掃く人の未だに来たるなし

落花掃く能はぬなりし雨やまず

庭掃くを躊躇ひをりて花の散る

櫻の井

桜井駅を南に向け出発すると10分も行かないうちにそれはあった。

「櫻の井」跡。
夜来の春嵐で井戸に懸かる桜が一面に花を落とし、いわれが彫られた石碑も例外なく散った花びらをまとっている。
5世紀初頭第17代履中天皇がこの地においでになって、桜の花が散りかかるこの井戸の水を賛美されたということから「櫻の井」と呼ばれている。