異色

別院にすすめばゆかし酔芙蓉

芙蓉は中国では蓮のことを指すらしい。

美しさでは蓮にひけをとらないことから「木芙蓉」と呼ばれたとか。
これは漢語に詳しい昭和蝉丸さん(敬称が抜けておりました。失礼しました。)にただしていただかればならないが、芙蓉の中でも酔芙蓉とはなかなか妖艶な語感を伴うものである。朝には白く咲いていたが昼頃には目にもはっきりわかるほど淡い紅をさし夕方にピークを迎える。翌日にはもう花も閉じてすぼまるように眠りいっている。
芙蓉の寺として京の妙蓮寺が有名だが、当地では橘寺が知られている。決して広い境内ではないが、奥の院まですすむと前住職が植えたという見上げるようみごとな酔芙蓉を見ることができる。
橘寺は聖徳太子生誕の地といわれ、飛鳥と斑鳩を往復したという黒駒の像がおかれたりしてよすがをしのぶことができるが、名前の通りここには大きな橘の木が植えられている。寺の名前の由来は、田道間守(たじまもり)が垂仁天皇に命じられて常世の国の不老長寿の実を持ち帰った橘を植えたことにある。
生臭い歴史の多い飛鳥のなかではひとり超然として異色の存在の輝きを放っている。

醉い醒めて

酔芙蓉紅の初めを手かざしに
酔芙蓉よべの名残を玉に巻き

再び酔芙蓉である。
八重咲の酔芙蓉
花のピークは9月中旬から10月初めころだろうか。彼岸花と重なるようだが、それよりは花の期間が長いようだ。

朝のうちはそれとは分かりにくいが、さすがに昼頃になると花弁のうらなど目立たない部分がうっすら紅をさしたようになっていて、醉いが回り始めていることが分かる。
花弁の裏から酔い始めた酔芙蓉
一日花と言われるがすぐに落花してしまうわけではないので、翌日はその名残も楽しむことができる。終わったものは花弁をねじるように巻き付け、最後は玉を結ぶように巻いてしまい、落ちるときのポトッという感じが椿の落花に似ているところだ。
名残の酔芙蓉

酔い痴れる

介抱に及ばず候酔芙蓉
こんなにも痴れてしまうて酔芙蓉
酔芙蓉知るや知らずや明日のなき

橘寺の酔芙蓉

さながらに白磁玉杯花芙蓉
花芙蓉杯の底まで陰りなく

橘寺の芙蓉
牡丹と芙蓉、ともに花の女王であろう。

両者とも豪華という点では一致するが、芙蓉は一日花であるだけに、一瞬の輝き、陰りをも楽しめればなお趣は深いものがある。
今回は盛りにはまだ早いという時期に訪ねたので、その新鮮さはまた一入であった。掲載の白芙蓉の輝きを見てもらいたい。ちょうど正午頃だったと思うが、強い日差しに負けず花弁はまるで咲き始めたばかりのように瑞々しい。