御朱印いただきに

旅心またぞろもたげ木の芽時
仏心にすがる気そぞろ木の芽時

万物が動き出すとき。

旅心、と言っても遠くである必要はなくて、小さい旅、たとえば近場の札所を巡って御朱印をいただくだけのような、ささやかな旅心がまたぞろもたげてくる。
関東で言えば、浅草周辺、北鎌倉の五山などがいいだろうか。
木の芽時は季節の変わり目で体調を崩しやすいと言われるが、草木から元気をもらうためにも、外に出て活発に動けばいい。気ふさぎなどしている暇はないのだ。
とりあえず、御朱印帳の新しいのでも買ってくるか。

2年ごとの憂鬱

根分して萩の肩身を広げけり

一般に株の根分けというのは、レフレッシュするのが目的である。

レフレッシュして株の勢いを回復させるのである。勿論、子株に分けたい場合にも有効ではある。
しかし、このたびは、あまりにも勢いが強すぎて周りの草木の伸びる余地を奪いかねないので、これをいったん掘りあげて小さな株に仕立てたかったのだ。
育ててみて分かったことだが、萩は手を入れないと背丈ほどに伸び、周囲に枝垂れるように広がる。
そこで、夏に2回ほど切り詰めてやる必要があるのだが、それでもスペースさえあればどんどん広がってしまうのだ。

ただ、掘り返すと言っても、2年もたってしまえばしっかりとした根をいっぱい広げるので、大変な重労働なのである。
これほど逞しい樹木というのは珍しく、2、3年したらまた頑固な根っこと格闘しなければならないと思うと気が重くなる。

白い街風

雪柳千手の枝のつむじめく
雪柳白き火焔の盛りなる

句会の帰途に、馬見丘陵経由の道を選んだ。

どこまで開花したのかを確認するためだ。
案の定、開花したばかりという風情で、今日から数日の花冷えを考えるととてもこの週末は期待できない。
静心を失いつつあった開花騒ぎなので、いい具合の花冷えとも言えるだろう。
やはり、花は4月に楽しみたい。

代わりに、アプローチの雪柳の植え込みが見事で、思わず園内に誘い込まれそうになった。

ひんしゅくもの

春泥の靴で都心に帰りたる

泥をつけたまま客先に上がるなど言語道断。

さらに、泥靴でバスなど乗れば同乗客の顰蹙を買うこと間違いない。
一般社会のエチケット、マナーの世界では、人と会ったりお宅に伺う前には泥は拭わねばならないことになっている。
泥は忌むべきものなのである。

ところが、俳句の世界ではこの泥がいいと言うのだから分からないものだ。
単なるぬかるみではなく、雪解けや霜解けなど春先独特のぬかるみを総称して「春泥」と呼び、珍重するのである。

掲句は、終日田舎道を歩いたあげく、泥を拭いもせず疲れ切った体でバスに乗り、電車に乗り、地下鉄に乗って帰ってきたのである。道中、多くのさげすみの視線にさらされたのは言うまでもないだろう。

語り継ぐ桜

初桜この地まで海溢れたと

大阪と並んで奈良にも開花宣言があった。

気象台は佐保川の北の丘にあるので、当町より寒いはずだが、気候には正直なものだ。
来月の吟行予定が佐保川だが、この分では堤防の桜も終わっているかもしれない。
雪柳も散り始めたし、すべての花だって予定より早く開花し始めている。
この分では、虫たちだってタイミングを見逃すかもしれない。
蜂が飛び回る前に花期が終わってはしまっては気の毒だと思うのだが。
それとも、賢い蜂のこと、ちゃんと蜜のある場所を確保するのかもしれない。

東北のある町では、津波到達線に沿って桜を2万本植えるプロジェクトがあると聞いた。
何年もかかる活動だが、これらの特別な桜を介して幾世代にも語り継がれんことを。

陰り

ものの芽を踏みゆくおむつ揺れにけり

全日空のダイヤが大変乱れているという。

そのせいか、先ほど夕刊を取りに外へ出たとき、今まで見たことのないほどの飛行機雲が東西に流れていて、ざっと数えても4本、そして東西を行き交う機影が各一機。さては、搭乗待ちだった便がどっと夕方になって繰り出して、遅れを取り戻そうとしているのではなかろうか。
いずれも高い位置だから近畿発着ではなく九州や四国など遠距離を行き交う便のようだ。
いつもならこの時間帯は大阪空港などに降りると思われる低空を飛ぶ便が、東からひっきりなしに飛んでくるのに、今日は見当たらない。

どこで聞いたか、飛行機雲が見られるのは天気が崩れる予兆だという。
空だけではなく、最近、陸のダイヤも乱れるトラブルが多いように思う。
日本の力に陰りが兆しているような気がして仕方がない。

満開いつ?

標準木あふぎ桜は開花すと

東京は今日開花宣言したようである。

九段の標準木の周りにはいつになく人があふれ、「お待たせしました。開花です。」の声にどっと歓声がわく様子が放映されていた。
週末にまた気温が下がると言うから花期は長いかもしれない。

開花すれば、次は満開便り。
次から次へ楽しみが広がっていく。