華やぐ

初花にさばしる水の速さかな

長雨に川は増水している。

信貴山から落ちる沢もいちだんと音を高くして驚かされる。
今日は黄砂が心配される予報だったが、久しぶりの好天に誘われて町歩きを楽しんだ。
どうやら当地では開花したようで、これから十日間ほどは各地から賑やかな花便りが聞かれるはずである。
今夜はタイミングよくNHKBS放送で京都・滋賀・奈良の源氏物語ゆかりの寺社などの桜をライブで紹介する番組もあり、いよいよ一年でもっとも華やぐ季節が始まるというわけだ。

主役交代

都へとわが子をやれば初桜

連休を利用して一時帰省していた二女がくしくも開花宣言のあった日の奈良をあとにした。

帰途の情報がつぎつぎとLINEを通じて入り、すでに寝入っていた家人は何度も起こされたようである。
一方の私はといえば白河夜舟状態で朝になるまで気がつかず仕舞い。
とまれ長旅を無事に着いたのは何よりだった。
おりしも菜種梅雨前線が出張ってきてこれからしばらくぐずつく天気が続くだろうが、おおむね暖かい日が待っているようで桜は十分楽しめそうである。
花粉の主役は杉から檜に代わりつつあるようで、油断はおさおさ怠れないが。

初桜

春雨の暗きに深き平群谷

雨の中、平日の都会に久しぶりに出た。

途中雲が低くのしかかって平群が静かだ。生駒も半分くらいは雲に覆われている。
竜田川(実態は生駒南から平群谷を下ってくるので平群川と言ったほうが分かりやすい)をさかのぼるように電車は生駒に向かい、途中隘路になったような渓谷が深く切れ込んだあたりが、役行者が修行したと伝わる女人大峯山「千光寺」への上り口となっている。
ここは春の新緑、秋の紅葉がすばらしく電車で通過するたび窓外に目を転じて楽しんでいる。はしなくも今日その渓谷を渡るあたりで勸請縄がかけてあるのを発見して驚いた。あっという間のことだったので何をどこから守ろうとしているか、何も分からず仕舞いだったので、あらためて訪ねてみようと思う。
帰りには雨がやんでいて、生駒の中腹から盛んに雲が湧き、平群谷は春の地熱に包まれているような柔らかさがあった。

山ひとつ越えて家路の初桜

駅に着いたら朝には気づかなかった桜が一輪開いていた。染井吉野はまだだが、早桜はもう始まっている。

見かける

初花の車窓となれる赴任かな
出張の車窓過ぎりし初桜

務めているときは桜をじっくり眺める時間はなかなかとれないものだ。

いきおい、仕事後に連れだって夜桜見物に出かけたり、休日に家族と楽しんだりするのが中心となる。
それ以外は、通勤途中や勤務時間中、あるいは掲句のように外出時に、「見かける」のが関の山だろう。
また、休みに桜の計画をたてていても、思うとおりに咲いてくれないこともあるし、あいにくの天気で気勢がそがれてしまったり、とかく自然相手はままならない。
ただ、どんなときであれ、その年初めて「見かける」花は特別である。ニュースなどで各地の花便りは盛んに耳にするが、やはりこの目で見る桜、ことに初桜ならばなおのこと、浮き立つ心が増してくるというものだ。

語り継ぐ桜

初桜この地まで海溢れたと

大阪と並んで奈良にも開花宣言があった。

気象台は佐保川の北の丘にあるので、当町より寒いはずだが、気候には正直なものだ。
来月の吟行予定が佐保川だが、この分では堤防の桜も終わっているかもしれない。
雪柳も散り始めたし、すべての花だって予定より早く開花し始めている。
この分では、虫たちだってタイミングを見逃すかもしれない。
蜂が飛び回る前に花期が終わってはしまっては気の毒だと思うのだが。
それとも、賢い蜂のこと、ちゃんと蜜のある場所を確保するのかもしれない。

東北のある町では、津波到達線に沿って桜を2万本植えるプロジェクトがあると聞いた。
何年もかかる活動だが、これらの特別な桜を介して幾世代にも語り継がれんことを。