おざなり

知らぬ間に十薬匂ふ庭ぞかし

つーんと強い匂いがする。

これは紛れもない十薬の匂い。
種を蒔いたとか、苗を植えたとかまったく身に覚えのないものだ。
隣地に家が建って半日日陰となり、しかも湿り気を帯びがちになったせいだと思う。
それにしても、条件が整えばちゃんと環境に適した種類の生物が生えてくる自然の営みには感心するばかりである。
おざなりのままにしておいた主のせいでもあるのだが。

梅雨の晴れ間に

十薬の喜ぶ雨の来たりけり

隣に家が建って半日陰の場所ができた。

おまけに茂り放題の梅の蔭にもなるあたりに、初めてドクダミが咲いたのが見つかった。梅雨の到来を近いことを知らせる花であったのだ。
陰湿な場所にはびこるとは知っていたが、かくも正直に根づくものなのか驚いている。いったい種はどこから飛んでくるのだろうか、あるいは土中には雌伏の時をおいてチャンスを待っていたのか。自然界はまことにかくもうまくできていると感心するが、感心ばかりはしてられない。放っておけば地下茎を伸ばして来年さらに広がることは目に見えているので、風がよく通るよう庭を片付けなければならない。
梅雨の晴れ間はなにかと忙しいが、さらに一仕事加わるようでやれやれである。

対抗馬にするか

十薬の処方伝へず身罷りし

どくだみと聞くとおどろおどろしいが、いくつもの薬効効果があるという。

そんなことから別名「十薬」と呼ばれるが、これを干したものをお茶にしたものが「どくだみ茶」である。
花の咲く頃、一番元気がいい頃に刈り取って干したものを炒ればできあがりらしいが、実際には試したことがない。
いつだったか、一鉢を庭におろしたら、みるみるはびこって庭中がどくだみだらけになったことがある。これもちゃんと刈り取っておけばいいものを放置していた結果だ。
ただ、いいこともあって、十薬の生命力がたくましいのだろうが雑草どもが生えてこなくなったというおまけがついて、家人などはあの匂いが嫌だと言って近づかなかったが、僕自身はあの薬臭い匂いがなんとも好きだった。
当地へ来ると、やたら外来性の雑草が多くて庭の管理も大変だが、かといってあのどくだみを敵役に使うには何となくためらいもあって決心がつかない。