滑舌

許可局とはつきり聞こゆほととぎす

まだこの辺りにとどまっているようだ。

菜園に着くなり棚田の奥のほうから時鳥の声が聞こえてきた。それも今日のはかなり明瞭だ。
「トッキョキョカキョク」と啼くと言われるが、まさにそれなのである。とくに「キョカキョク」の部分がしっかりそのように聞こえてしばらく聞き惚れた。
さっそく真似して「トッキョキョカキョク」と言おうとしたが、全然舌が廻らない。早口言葉、滑舌の練習にも用いられるフレーズだが、いくつになっても上手にはなれないでいる。
日本語の特徴として、舌や、口の周りの筋肉などはあまり使わないこともあって、このフレーズは平坦に流そうとするとまず無理のようである。「オ」の音が多いのでそれを意識して唇を縦に突き出すようにチャレンジすると意外にうまくいくようである。試しに、まずは最初の「ト」から口をすぼめて始めると意外に後が続く。お試しあれ。

競演

遠時鳥とかく失せ物多し

昨日、今日と連続して遠くの時鳥を聞いた。

信貴山下の棚田一帯を渡り啼いているようだ。時間は午後遅い時間。深夜啼くことがあるし、活動時間帯は想像もつかずまるで忍者みたいな鳥である。
いっぽう近くの両岸が竹林に囲まれた川では、日がな一日鶯が啼いていて両者のハーモニーはこの時期だけの自然の贈りものである。
明日から雨が続くというので菜園の雨対策のほかサツマイモの苗挿しも何とか間に合わせることができた。
あれもこれもとやることのある一方で、鶯と時鳥の競演。それらに気をとられているとこれまたあれこれ忘れ物したり、失せ物探しにうろうろしたり。いやはや、あわただしい日であった。

競演

ほととぎすここは譲れぬ声比べ

時鳥の鳴き声というものはすぐに遠ざかってゆくものだ。

なぜなら、彼らはもともと渡りの習性があるうえに、一カ所にじっとはしないで山里、棚田などを渡り啼くものだから。鶯も藪など低いところを移動する習性があるが、時鳥ほど速くはないし、自分の縄張りを主張するときなどはまず動かないで佳い声をいつまでも聞かせてくれる。
時鳥と言えば、夜中の夢うつつのなかで聞きとがめてもすぐに声は遠ざかっていく。啼いてるなと思っても声の主はつねに移動しているので長くは楽しめないものだ。
時鳥の句には久女の有名な句、
谺して山ほととぎすほしいまゝ 杉田久女
がある。おそらくこれは山峡をこだましながら渡っているからながく聞こえたにちがいないと想像する。
ところが渡り途中の二羽が出会うと、縄張りを競うかのように延々と鳴き比べすることもあるようだ。こうなるといつまでもつづく夢の競演となり、いつのまにかその虜になって聞き惚れてしまうことになる。過去に一度だけしか経験したことがないが、あれは決して忘れられないくらい貴重な時間だったようだ。

時なしの鳥

暮れ残る空は蒼濃く時鳥

店に入ろうとする歩が停まった。

時鳥の声を聞いたからだ。
駐車場から田植がすんだばかりの田がつづき、そのすぐ向こうに目にもはっきり分かるわりと大きな古墳。
どうやらその百メートルとない近さの古墳の裾を巡回しているらしく、夕方の交通ラッシュの騒がしさの中でもよく聞き取れる。
間もなく暮れようという時刻で、未明の枕元によく聞くこの鳥はいったいいつ寝てるのだろうかと不思議になってくる。
「時鳥」と書いたり「不如帰」「杜鵑」とも書いたりする鳥だが、昼夜と分かたず鳴くのでまるで「時なしの鳥」とでも呼んでよさそうである。

鶯も鳴かねば

田の水はいまだ冷たし時鳥

帰ろうかと思ったらふいにホトトギスが鳴き始めた。

沢水のほとりに近く遠くに来ては、繰り返し「トッキョキョカク」だの「テッペンカケタカ」だのと鳴く。
今までホトトギスの声を聞くのはこうした棚田のように斜面の田のあるところで、水があるところを好む鳥ではないかと思うのだがどうだろう。

棚田の両脇から鶯の声も聞かれるが、もしかしたらこの托卵の習性のあるやつに狙われているのかもしれないぞ、気をつけな。

幻聴か

うばたまの闇を聞きなす時鳥
不如歸夢のうつつを醒ましけり
杜鵑寝覚めの耳にまろびけり
聞きなしを寝覚めの床に霍公鳥

それは不思議な感覚だった。

昨夜、というより今日の未明だと思うが、夜中の微かな意識の中にまぎれもなくホトトギスの声が聞こえてくるのだ。幻聴ではないと確信するが、暑くて窓を開け放っているので聞こえたのだろうか。
果たして夜中の何時頃だったのか、それすら覚束ないほどの意識のなかで何度も何度もホトトギスの声だけが聞こえてくるのだ。
「ああ、まだこの近くにいるんだな」と思ったのもつかの間、すぐに眠りに落ちていったようで目覚めたのはいつもの時刻だった。

放浪者

先住に気兼ねすまじくほとゝぎす

鶯の声がにぎやかに聞こえるマイファーム。

きょうは珍しく時鳥が鳴いている。
ただ、先住者の鶯たちに遠慮してかやや声が細い。20分ほど鳴いてそれきり聞こえなくなった。今年の居場所を探しているのだろうか。
夏に日本にやってくると言うが彼らの冬の居場所はどこなんだろうね。

大玉西瓜が受粉に成功して実をつけ始めた。
直径1センチにも満たない赤子だが、しっかりとあの縦縞、ストライプ模様が誇らしげ。