虎のご加護

城落ちて山永らふる秋思かな

一将功成りて万骨枯るというが、そのまた将もいつかは朽ちる。

聖徳太子に信ずべき貴い山と言わしめた信貴山は今も古刹として多くの信心を集めているが、歴史上のあるときは戦国武将の山城として難攻不落を誇っていた。時代の異端児も信長の攻勢にはたえられず爆死を遂げたという話が残っており、その名を惜しんで麓の山城址には立派な弾正の供養塚もある。地元の人に死後も愛された武将とも言えるが、人同様に城もまた虚しく、いまでは森に埋もれてしまって麓からあおぐ山頂にはその形跡すらうかがうことができない。
虎を守護神とする戦の山は今も1400年の法灯を灯しているが。
虎と言えば、CS第一線タイガースは負けたようだ。

放心の後ろ姿

逝かるべき母の秋思の気高くも

今日は八回目の母の忌日である。

母は人一倍の暑がりで、その年の秋が訪れても毎日クーラーが欠かせず、それでも暑い暑いと訴えるのだった。
ある日の夕方、気がつくと網戸を開けて何を考えるのか、まるで放心したように柱にもたれては外気に触れるのを見た。
その後ろ姿はどこか気高いものを感じさせ、声をかけるのさえためらうのだった。
そのあと、一か月もしないうちに母は旅立った。
今朝はいつも以上に時間をかけて心経を供えた。

どこか飛鳥風

頬に五指そへて秋思の仏かな

広隆寺の弥勒像、中宮寺の観音像のしなやかな指とは違う。

この白鳳時代の半跏思惟像は右手の指五本がすっくとのびて、これが頬に当てられている。
どこのお寺のものか忘れたが、飛鳥仏の面影を残している仏さんだった。

秋日和

露けしや頭部欠けたる白鳳仏
盗難の模造仏の秋思かな

久しぶりにいい天気。

秋空のもと、白鳳時代の仏さんを中心とした「白鳳展」に行ってきた。
人皆考えることは同じで、混雑するんではないかと思っていたら意外に空いている。
おかげで一点一点じっくり見学できたのには助かった。
もっとも印象的だったのは、法隆寺の夢違観音がごく間近にみられたこと。まさかこんな貴重な宝を、手を伸ばせば届くような距離に無防備に展示しているとは。ほかにも有名な仏像が数多く出展されていて、どれもがその息づかいが感じられるほど近い。

仏教伝来以来100年、一斉に花開いた白鳳文化の粋を集めたこの展示は文句なしに素晴らしい。