猫肥ゆる

三輪山へ雲の一掃き秋高し

ひさしぶりに空が高かった。

午前中、西から川のように蛇行する雲が入り込んできて、東の三輪山の方向へゆっくりと流れてゆく。
空は文字通りの紺碧。
それらの雲が刻々姿を変えながら流れてゆくのを眺めたのは、五、六日前に迷い込んできた子猫の検査を受けるためクリニックの外で待つ間のことだ。
さいわい猫エイズなどの検査結果は陰性で、あとはいかに先住猫と慣れさせてゆくか。わずか450グラムの子猫にくらべ、先住猫どもはその10倍以上もあってあらためて大きい。
栄養不足のためか、やせている子猫の食欲は旺盛で猫肥ゆる秋となればいいが。
そう言えば、外猫のみぃーちゃんは秋の荒食いでちょっとふっくらしてきた。

サラブレッドの余生

競走馬余生の馬場の秋うらら
競走馬終の住処の秋高し
ギャロップもしてみせ手綱爽やかに
大鋸屑を替へて厩舎の爽やかに
馬銜解かれ鹿毛は厩舎へ秋深し
冷ややかに乗り手見切りし牝馬かな
桜紅葉かつ散るダムのビューホテル

榛原句会の今月は吟行だ。

場所は名張も過ぎて青山高原手前の乗馬倶楽部。
第一線のレースを引退したサラブレッドばかり20頭以上はいようかという立派な倶楽部である。
ここの馬は生涯死ぬまで乗馬用現役を務めるとか。競走馬としてはあまり結果を残せなかったが、気性に問題なさそうなものが選ばれているのだという。最高齢で27歳。平均年齢16,7歳。人間で言えば4を掛けて、我らと大差ないご老体であるが、さすがサラブレッドにしてケアも行き届き、贅肉もなく均整の取れたボディに我らは似るべくもない。

この倶楽部、目に見える句材はと言えば青い秋空、名も知らぬ木の黄葉くらいしかない。
乗馬のレッスン、調教、厩舎の手入れや蹄鉄装蹄の様子など約一時間程度しか取れず青蓮寺湖を見下ろす句会場へと向かうのだが、句帖は真っ白のまま。会場で頭を抱え込んだが、何とか六句が滑り込みセーフで間に合った。
上手い下手は置いといて出句したものの、今日のように季語の斡旋すら及びもつかないときは句友の句が一番の薬になる。
こんな句が好きだ。

すぐ前に馬の顔ある秋日和