立ちつくす

まのあたり紅葉且散る浄土かな

紅葉の素晴らしさに見とれていると、たいした風もないのにぱらぱらと音がして崩れるように散ってゆく。

声にならない感嘆のなかで欅の黄葉が散るのである。
葉ずれしながら落ちる音だけがその後も耳に残って、また次の落葉を待ちたいと思った。

紅葉より餅か

御破裂の紅葉且散り檜皮屋根

午後からは談山神社紅葉狩り。

盆地の雨は早くに止んだが遠くから見る御破裂のお山は雲の中なのでどうかと心配したが杞憂だった。
ただ、上がってみると雨は降り止んでいたが、十三重塔や本殿など檜皮葺の屋根からの滴りが止まないし、濡落葉が散り敷いた階段も滑りやすそうだ。
見事に紅葉した樹林に囲まれた境内をそぞろに進み、蹴鞠の庭から拝殿へ。
ここで多分模写とは思うが、鎌足の生涯を描いた「多武峰絵巻」の展示があった。英傑の出遭いとなった蹴鞠、大極殿での生々しい乙巳の変の場面にしばらく釘付けとなる。

参道の土産店で焼いた橡餅が珍しく、帰途車内でぱくついだが餡が甘すぎて橡の風味は今ひとつだった。

サラブレッドの余生

競走馬余生の馬場の秋うらら
競走馬終の住処の秋高し
ギャロップもしてみせ手綱爽やかに
大鋸屑を替へて厩舎の爽やかに
馬銜解かれ鹿毛は厩舎へ秋深し
冷ややかに乗り手見切りし牝馬かな
桜紅葉かつ散るダムのビューホテル

榛原句会の今月は吟行だ。

場所は名張も過ぎて青山高原手前の乗馬倶楽部。
第一線のレースを引退したサラブレッドばかり20頭以上はいようかという立派な倶楽部である。
ここの馬は生涯死ぬまで乗馬用現役を務めるとか。競走馬としてはあまり結果を残せなかったが、気性に問題なさそうなものが選ばれているのだという。最高齢で27歳。平均年齢16,7歳。人間で言えば4を掛けて、我らと大差ないご老体であるが、さすがサラブレッドにしてケアも行き届き、贅肉もなく均整の取れたボディに我らは似るべくもない。

この倶楽部、目に見える句材はと言えば青い秋空、名も知らぬ木の黄葉くらいしかない。
乗馬のレッスン、調教、厩舎の手入れや蹄鉄装蹄の様子など約一時間程度しか取れず青蓮寺湖を見下ろす句会場へと向かうのだが、句帖は真っ白のまま。会場で頭を抱え込んだが、何とか六句が滑り込みセーフで間に合った。
上手い下手は置いといて出句したものの、今日のように季語の斡旋すら及びもつかないときは句友の句が一番の薬になる。
こんな句が好きだ。

すぐ前に馬の顔ある秋日和