のびのび

てらひなき児らの斉唱秋うらら

トトロの歌が教室よりこぼれる。

音楽の授業らしく教室から斉唱の声がもれてくる。
思わず聞くともなく見上げると、空はまたとない青空。
それだけでこの日一日幸せな気分が持続する。
自分たちの時代の教科書と言えば童謡、小学校唱歌が中心で、今のようなアニメなどポピュラーな曲は見られなかったと記憶している。
子供たちの声ものびのびとしていて、いかにも楽しげで、歌が苦手な児、上手な児関係なく、それぞれ自由に歌っているように思えた。
画一的な教育の弊害が言われるなか、授業が嫌いにならないことがまず第一であるように思える。

熱々

鯛焼を匹であがなひ秋うらら

天然がウリの鯛焼きを買ってきた。

天然というくらいだから個数の単位も匹である。
それにしても久しぶりの鯛焼きだが、以前に比べ3割くらい値上がりしていてあらためて昨今の諸物価高騰を思う。
原材料、とりわけ小麦粉、小豆などの高騰などが響いているのであろう。
皮がいくぶん薄くなったような気がするが、だからといって餡との隙間ができるわけでもなく尻尾までびっしりと詰まって熟練の技で焼き上げているのは感心する。
クーラーを効かせてチンしたての鯛焼きの熱々を食う。
コロナ禍の束の間のやすらぎである。

おおらかな

陽石を隠語で呼んで秋うらら

飛鳥は奇石の多い里である。

「亀石」やら、「猿石」やら何のために作られ据えられたのかはっきりとしないのが多い。
そのなかでも傑作は通称隠語で呼ばれる陽石である。飛鳥川に向けて約45度傾けるように地面に突き刺さっている感じだが、地元古老によると川をはさんで正面の祝戸展望台のある小高い山にかつて陰石があり、それと対をなしていると言うのである。
飛鳥坐神社の奇祭といい、男綱女綱の勸請縄といい、「生」というものになんともおおらかな気風の里ではある。

通行の邪魔

屯してゲームに夢中秋うらら

駅周辺に異常なほど人が集まっている。

全員がスマホの画面見ながら、まさに「屯」なのだ。
交通整理に警官までもが出動して、まさに異様な光景。
子供連れが子供をほったらかしてまで夢中になるのは、あの妖怪goの特別デーらしい。
いい年をした、孫がいてもおかしくないものまで仲間して、暗澹たる気持ちになる。
散歩コースの公園も通年この集団が集まってくるし、どうか通行人の安全を脅かすことだけは避けてもらいたいものだ。

サラブレッドの余生

競走馬余生の馬場の秋うらら
競走馬終の住処の秋高し
ギャロップもしてみせ手綱爽やかに
大鋸屑を替へて厩舎の爽やかに
馬銜解かれ鹿毛は厩舎へ秋深し
冷ややかに乗り手見切りし牝馬かな
桜紅葉かつ散るダムのビューホテル

榛原句会の今月は吟行だ。

場所は名張も過ぎて青山高原手前の乗馬倶楽部。
第一線のレースを引退したサラブレッドばかり20頭以上はいようかという立派な倶楽部である。
ここの馬は生涯死ぬまで乗馬用現役を務めるとか。競走馬としてはあまり結果を残せなかったが、気性に問題なさそうなものが選ばれているのだという。最高齢で27歳。平均年齢16,7歳。人間で言えば4を掛けて、我らと大差ないご老体であるが、さすがサラブレッドにしてケアも行き届き、贅肉もなく均整の取れたボディに我らは似るべくもない。

この倶楽部、目に見える句材はと言えば青い秋空、名も知らぬ木の黄葉くらいしかない。
乗馬のレッスン、調教、厩舎の手入れや蹄鉄装蹄の様子など約一時間程度しか取れず青蓮寺湖を見下ろす句会場へと向かうのだが、句帖は真っ白のまま。会場で頭を抱え込んだが、何とか六句が滑り込みセーフで間に合った。
上手い下手は置いといて出句したものの、今日のように季語の斡旋すら及びもつかないときは句友の句が一番の薬になる。
こんな句が好きだ。

すぐ前に馬の顔ある秋日和