BGM

足湯して虫聞く夜とはなりにけり
足湯して湯舟にしずむ虫の夜
足湯して首まで浸かる虫の夜

昨日今日と急に季節が進んだ感じで、体温に近い温度にしておいた湯舟はさすがにぬるい。

今夜から冬にかけて徐々に設定温度を上げてゆくことになる。
それにしても、虫の声が聞かれないのはどうしたことだろう。
いつもの年なら、湯舟で虫たちをBGMにゆっくり手足を伸ばしていたものだが。
外へ出れば、隣の空き地からはかすかに聞かれるが、家の中にいてはまったく聞こえてこない。
虫たちにとっても苛酷な夏だったろうが、遅生まれの子たちが戻ってきてくれたらいいがと思う。

憎めない暑さ

目玉焼の口を濯げば虫の朝

幽かだけど聞こえてくる。

コオロギだと思うが、朝や夜のふとしたときに秋の気配がある。
たとえば、使う前には気にも留めなかったが、電動歯刷毛のモーターを切ったら、急に虫の鳴き声が聞こえてきたりする。
熱帯夜の寝汗が顔の脂とまじって電気剃刀を使うことさえすこぶる不快な気分にさせられるが、こうしたささいな音によってそうした煩わしさから一瞬の自由が得られ、束の間の涼しさに包まれる。

外は相変わらず35度を超えるが、空の青さにはどこか澄んだところもあって、どこか憎めない秋の暑さである。

毎夜の虫浄土

うかと出て虫の楽止む狭庭かな

相変わらず虫浄土である。
この一週間ほど、夜が過ごしやすくなったのに合わせるかのように毎夜虫に楽しませてもらっている。
どうも虫にも棲み分けがあるらしく、平らな庭の茂みにはこおろぎが単独で、駐車場などの茂みには、何匹も同時に鳴くのではっきりと断定できないが鈴虫のようなものが複数聞こえてくる。
めったにないことだが、スマホを持ち出して録音し、LINEとやらで娘に送ってやった。

ただ、もっとよく聞こうと近づいたら、名演奏がはたと止まってしまった。

秋急ぐ

飛鳥田の休む一枚虫の原
恋ふる歌それとも凱歌虫の原

飛鳥の田は穂がようやく立ってきたばかり。

八月後半の冷夏につづいてこれだけ長雨が続いているので、実入りがどうなるのかちょっと心配されるところだ。
秋が急速に進む一方で、虫たちも恋の成就を急いでいるかもしれない。休耕で立ち止まると、生い茂った雑草の中で、少々の雨にかまわず色んな虫たちの声が聞こえてくる。

苦行

街灯の届かぬ路地の虫浄土

涼夜である。

この住宅地はまだ空き地もあって、雑草も茂っているせいか、窓を開けたまま電気を消して目をつむっているといろいろな虫の声が聞こえてくる。たいがいはコオロギだろうが、馬追やキリギリスも。さすがに鈴虫、松虫は聞かれないが、夜気がもう十分涼しいのでこれら普通の虫の声だけで十分浄土に身を置いているような錯覚にとらわれる。
その浄土の中でいい句が授からないか、苦吟している時間は苦行とは感じないのである。

音のない空

頭上行く旅客機灯や虫の夜

自宅あたりは羽田から西へ向かう旅客機の飛行コースになっている。
おそらく高度はすでに3,000、4,000メートルは超えているだろうから音は聞こえないが、天気がよく空気が澄んでいるときは機影をはっきりと視認できる。
夜には飛行灯を点滅させながら西へ向かうが、昼間に比べてその速度がゆっくりに見えるのは不思議だ。

困ったことは、最近米軍か自衛隊の飛行コースが変更になったらしく戦闘機らしきものが低空で飛ぶようになったことだ。
基地の近隣住民の苦労を思う。