理想の土

黒々と堆肥よく肥え蛍草

雨続きで露草もよく茂る。

鎌を持つ手もしとどに濡れて、草が刃にからみつく。
畔に摘んだ草堆肥がなかば土と化して熟成の証しの黒い色をみせている。そばには背の低い草が生えてきて、いかにも畑にとっていい土になったようだ。
稲科の草が生えるようじゃ土はまだまだできてない。オオイヌノフグリが生えるような土を理想に当分は堆肥作りに励むしかない。

焦る

火点しのあの家この屋の秋の雨

ただでさえ暮れるのが早くなったのに。

一日中蕭条と降るのはいかにも秋の雨らしいが、部屋の中に重苦しい空気が漂ってくるとさすがに気持ちも重い。
部屋が暗いうえに低い気温も加わっていよいよ沈んでくる。
畑でもやり残したことはいっぱいあって気ばかり焦り、この台風が去ってくれないと何もできない週になりそうである。

待ってました

看脚下きのふなかりし曼珠沙華

草刈りした途端顔を出してきた。

雨で二日ぶりに畑へ出たら畔に一本の彼岸花を見つけた。一昨日はまったく顔を見せていなかったのに早いものである。菜園をシェアしているメンバー間で気がついたものが交替で草刈している畔なので、誰かが苅ってくれたのだろう。
彼岸花というのは草刈をじっと待つ花のようである。草ボウボウでは芽を出さないが、苅った途端待ってましたとばかり噴き出してくるのは面白い。

月の八月

新月を見むにも雨の盆地かな

天文でいう新月と季語の新月とは異なる。

天文用語では朔日の月のことだが実際には見えないので、俳句では夕方はじめてのぞく三日月のことを言う。今年で言えば一昨日の10日。
これだけ雨前線が停滞しては今年は夕月夜を見られないまま終わりそうである。
*夕月夜 陰曆八月、新月からしばらくのあいだ夕方に見える月のこと。

風味

はじめての土に親しむ貝割菜

オーバーな言い草だが。

大根は誰でも簡単に育てることができる初級者用野菜。芽出しも簡単だし、一人前になるまでの間引き菜も楽しみの一つ。ビニールマルチを使えば点撒きとなるが、それでは間引きの楽しみが減じる。やはり王道は筋撒き。間隔を2、4、8センチという具合に、何度でも引ける。しかも大きくなるたびに大根としての風味がましてくるのがいい。
そろそろ菊菜、大根、小蕪などをまこうかと思う。

好きな匂い

選ばれて菜虫とりつくハーブかな

西洋パセリに可愛い柄をした虫がついた。

葉をよく見るとところどころに黄色い卵が。蝶は柑橘類とか山椒が大好きだが、この蝶は西洋パセリが好きなようだ。
長さは2センチにも満たないが、立派な青虫の成虫。いったいどんな蝶が生まれるのだろうか。

あやかる

二回目の接種に出向く重九かな

9月9日、重陽の節句。

すっかり廃れた感があるが五節句のうちのひとつ。菊の花をかざり菊の花を浮かべた菊酒を飲み不老長寿を願う行事である。実際に菊というとやはり陰曆でなくては実感がこもらないが、今日をもって重陽の日とさだめるのが通例となった。
実際、私などとっくにコロナワクチンを済ませたが、長寿にあやかっての掲句である。