春北風や隊士見送る医療ヘリ
春塵をまいてドクターヘリ発てり
取り巻いた人たちにも、ものものしい雰囲気が漂っている。

何かと近づけば、初めて見るドクターヘリだ。
運動施設のフィールドに駐機していて、今しも救急患者を載せるところだった。
もしかすれば運動中に人事不省に陥り、医療救急車では対処しきれなくなったのだろうか。
県内の広い領域が山間地帯で、ドクターヘリによる救急救命体制の確立が急がれており、最近ようやく自前のヘリを稼働させたばかりだ。比較的恵まれた盆地中央でも、搬送をヘリに託すというのはよほど重篤な患者なのかもしれない。
このような緊急を要する重篤患者の救急医療の核となるのは、北、中、南に三つある地域医療センターのほか、県立医大など。
救急ヘリというのは、ヘリとそれに乗る医療スタッフのイメージが強いが、見ているとどうやらそれは大きな間違いで、現場においてもヘリをサポートする人間が必要なのだ。たとえば、風向きを教える吹き流しを掲げたり、離着陸の際の警備とか、周囲を見渡して全体の指示を出す人とか。
そして、いよいよ離陸となってエンジン音が高まるとともに、機体がふわりと浮く。すると、その瞬間、野次馬として遠巻きにしていた人々にも一斉に落葉や土埃が降りかかってくる。向かった方向からすると橿原の県立医大へと進路をとっているのかもしれない。そこでもまた、関係者が体制を敷いて待ち受けているに違いない。
緊迫した救急医療現場の一場面に遭遇し、命一つをつなぎ止めるための多くの貢献を思わずにはいられない。