仲秋へ

鵙日和棚田に腰を伸ばしては

二三日前から鵙の高鳴きを聞くようになった。

忘れた頃にまたやって来て、書斎の窓を開けて所在を確かめようとするが、この時期は一カ所に長居はしないようで簡単に見つかりはしない。
いかにも秋とは言いがたい生温かい空気だが、初鵙を聞く日と言うのはたいていそんな日だ。確実に仲秋に向かっているのを実感する声なのだ。
ノルディックウオークの二人が、そんなことには関心もみせず足早に過ぎ去っていった。

メードバイ萩

蓑虫の約束通り萩衣
蓑虫の萩の衣に揺られゐる

赤はほとんど終わりに近いが、白はこれからだ。

純白の瑞々しい白萩のなかに際だつ枯葉があったので、近くに寄ってみると、なんと蓑虫であった。

通行の邪魔

屯してゲームに夢中秋うらら

駅周辺に異常なほど人が集まっている。

全員がスマホの画面見ながら、まさに「屯」なのだ。
交通整理に警官までもが出動して、まさに異様な光景。
子供連れが子供をほったらかしてまで夢中になるのは、あの妖怪goの特別デーらしい。
いい年をした、孫がいてもおかしくないものまで仲間して、暗澹たる気持ちになる。
散歩コースの公園も通年この集団が集まってくるし、どうか通行人の安全を脅かすことだけは避けてもらいたいものだ。

ミニカッパドキア

撮りたればお伽の家の茸かな
撮りたれば食ってみろよと言ふ茸
撮りたれば手にも採りたき茸かな

雨の日が続いてにょきにょき顔を出してきた。

櫟林の下草の間の、あちこちに珍しい形の茸がある。
ずんぐりとした胴のものもあれば、傘をおおきく反らせるようにしたやつ、どれも立派な傘をもっていて妖精たちのハウスのように見えてくる。
蹴散らされることなく目の前に造形の美しさを楽しませてくれたのはさいわいである。

Dランク

鉄棒の雫の錆びて秋の雨

暑くて出不精が身についてしまった。

かかりつけ医で目新しい器械があって興味を引かれると、さっそく測って見よと言う。
年齢をインプットして指を突っ込むと、スーパーのレシートのようなものが書き出されて何やら数字が書いてある。
体の老化度というか、健康のバロメーターを示す数字で、同世代のどのレベルにあるかを示しているそうだ。
5段渦中のDランク。
ちゃんと運動しているか、ちゃんとバランスのとれた食事をしているか、ちゃんと眠れているか、などなど問診があるが、やっぱり運動不足が問題だと言うしかない。
この長雨が終わったらまたあの古墳公園周遊コースを歩かなくちゃ。これから冬〜春までは最高の散歩シーズンだし。

降りみ降らずみ

きれぎれの雨の小止みの昼の虫

今日からしばらく天気が愚図つくそうである。

いつもの通りたいして振らないかと高をくくっていたら、朝から意外にしっかり降っている。
ただ、秋独特の降りみ降らずみの雨のようで、ちょっと小降りになるとすかさず虫たちの声があちこちから聞こえてくる。まるで、遅かったシーズンを取り戻すかのようだ。
夜になって雨が一段落したら、今日は耳鳴りがするような虫すだき。
とくに珍しい虫が居るわけではないが、こおろぎたちのなかなかのオーケストラ団だ。

払底

樽買のボトル封切る夜長かな

年代物のウィスキーが品切れだそうな。

12年、17年といえば、いまやごくポピュラーな酒だが、メーカーでは想定以上の需要盛り上がりで値上げどころか、原酒自体が底をついてしまったのだという。
有名洋酒メーカーにいまも現役で頑張っているI君のところで、何回か工場見学をさせてもらう機会があったが、寝かせてある樽がずらっと並ぶところなどは壮観でさえある。聞けば、入社年に仕込んだモルトを同期一同で樽ごと確保できるシステムがあるそうな。
同窓会などで、そういう貴重なものを手土産に持ってきてくれるI君も太っ腹なら、メーカーもまたおおらかな社風で、いい会社とはそういうような企業風土が組織のすみずみにまで行き渡っているものであるらしい。
工場見学でいただいたミニボトルが封を切らぬまま棚に鎮座したまますでに数年経過している。この銘柄もいまやなかなか手に入らないものである。飲もうと思えばいつでも飲めるのであるが、ここまで時間が経過すると、もはや記念品を通り越して思い出に近いものになるので、なかなかそういう気にはならないのである。