救われる光景

禁足の杜の一本桜かな

不思議な景色を見た。

景行天皇陵の深い森のなかに一本の桜が灯るようにして咲いている。
この時期咲くと言えば染井吉野かもしれないが、すると誰が植えたのだろうか。あるいは他の種類だとすると鳥が種を運んできたのかも知れない。
昨日ちょっと荒れ気味なのは残念と書いたが、この桜にちょっと救われた気がした。

天満さん

桜葺く軒に日集め繁昌亭
天神の裏手明るき桜かな
昼席の開場待ちて亭うらら
昼席の太鼓聞こえて宮うらら

この春から月に一回天満宮近くにでかけることとなった。
今月で二回目だが、行きと帰りといろいろな交通経路を試してみるが、ことごとく乗り換え時には迷子になる始末。
まったく土地勘というものがないので、東西南北の見当がつかないのだ。
毎回グーグル先生の指示する予定より10分も15分も多くかかってしまうのだ。
ま、その分新しい発見もあるわけで、今日などはひょんな場所からあの天満宮さんを見つけたので、早速寄り道した。
天満宮さんはさすが浪華の神さんで、摂社末社の数がそれこそ「ハンパナイ」。
それをグルグル巡りながら参拝する信心篤い人もちらほらで、これも浪華らしい。

天満宮さんには六つの門があるとかで、その内のひとつのすぐ外に役者の出待ちでもしているような人集り。
なんだと近寄れば、繁昌亭だった。どうやら昼席の入場待ちの人のようで、10人づつくらい順番に呼ばれてなかへ入ってゆく。

ちりぬるを

警備士の独り占めなる桜かな

春休みの学校に桜が満開だ。

児童も誰もいなくて、桜もちょっと淋しいのではないか。
この週末が過ぎるともう散り始めて、入学式までもちそうもない。
逆に、今年の卒業式は桜にお祝いされるという珍しい年ともなった。

家のなかに居ても目がしょぼつくが、これほどまでにひどい年もなかったので、外出は控えざるをえないのが心残りである。

伊勢奥津の桜

杖なしに登れぬ坂の桜かな
山寺へ一本道の桜かな

そろそろ見頃かなと、伊勢・三多気の桜を見に出かけた。

山桜中心にいろいろな種類の桜があって、一部の枝には咲いているものがあったが、ほとんどの木は二分から三分咲きで、観光用写真にあるような眺めは見られなかったのは残念である。
全長1.5キロほどの上り坂の両側に桜が植えられてあるのだが、これがなかなかの勾配だ。平日とあって坂の半ばにある駐車場まで車で登れるのはいいが、なかにはお年を召していて歩き出してすぐに足が上がらないと諦めてしまう方がおられるくらいだ。
ただ、桜はまだでも、足許に野の花がいろいろ咲いていて、菫、二輪草、蕗の薹の薹のたったのなどが楽しめるし、放棄田の崩れかかった石垣にはコゴミも顔をだしていてちゃっかりいただいてきた。
結局、坂の終点の真福院さんまでは行かなかったが、生まれたばかりらしいオタマジャクシが水を張った田に黒々と固まっているのも発見できたし、遠くに千メートル級の山がおぼろに見えたし、天気に恵まれたまあまあの一日となった。
この分だと、来週の週末でも桜はまだ十分に楽しめるのではないだろうか。

期間困難地域

植えられて見てももらへぬ桜かな

こんな異様な光景はない。

バリケードされて無住の街の桜。
桜並木のこちら側は避難解除地域でライトアップもされているが、あちら側は期間困難地域で深い闇のまま。

そういうもの

頃なればどこか人来る桜かな

しばらく、「花」シリーズを続けたい。

日本人にとって、桜は人を寄せるものだ。
蕾と聞けば、開花はいつだとなり、咲いたら咲いたでいつが見頃か、いつまでなら見られるか、そんなことが気にかかってしず心ない季節となる。
咲けば、その下に人が集まり、宴になる。夜は夜とて宵篝、最近はライトアップにとって替わられたが。

全然関係ない話だが、「人来る」というフレーズからこんな句を思い出した。

死にたれば人来て大根煮きはじむ 下村槐太

昔は誰に指示されるわけでもなく、隣近所、今風に言えばコミュニティの人たちが集まって、それぞれの持ち場でてきぱきとことが運ばれてゆく。自分も、死ねば、このように、ごく事務的にすべてがながれてゆくのだろうか、と。

海鮮食いたい

紀に入るや右岸左岸の桃の花

今日は隣の和歌山まで行ってきた。

終点は和歌山築港としてナビにセット。
ところが経路はいったん大阪に入るという。
冗談じゃない。港でうまい魚を食うのも目的だが、紀ノ川沿いの桃の花が見たいのだ。
途中の桜も満開だろうし、ミーハーながら途中九度山にも立ち寄って完成したばかりの真田ミュージアムにも行きたい。

ナビを無視して京奈和道路を進む。
五条を過ぎたと思ったらすぐに橋本市。和歌山県である。両岸の山は柿。そして麓は桃の畑が散在する。
桃はもう少し下ったところかと思っていたので、この光景には驚いた。
矢も楯もたまらず高野口ICで降り、一般道に入って桃と桜を楽しむことになった。

猫の昼飯やりのため出発が遅かったので、ここで昼食タイム。
家人は最近歯がよくなくて魚は食べられないと言い出したせいもある。
久しぶりの新鮮な海鮮を食い損なったのは残念だが、おかげでゆっくりと九度山散策とあいなった。

柿山の麓ふもとの桜かな

五条から橋本にかけては両岸の山はほとんど柿畑のようである。規模としては、和歌山側の方に分がありそうだ。柿畑と柿畑の間、柿畑と桃畑の間、桜は最高のコンディションだった。