虫の知らせ

町の灯を雲に映して無月かな

町明かりのある雲。

雲が低い証しであろう。
夕方4時頃大粒の雨が突然降ってきて、一時間くらい降ったろうか。今日の月は無理かなとあきらめていたら、夕方7時頃突然隣町のものと思われる季節外れの打ち上げ花火が聞こえてきた。花火に照らされて雲が明るくなる。
今日は上がる方向が甍の正面、東南のためいつも以上の人が外へ出てきて楽しんでいる。
今日は仲秋の名月。雨の後涼しくなって虫の声が爽やかである。ただ今日家人に言われて気づいたのであるが右の耳がやや遠くなっているらしい。
庭を右に座ると庭の虫が判然としないのである。左を向ければはっきりと聞き分けられる。
虫の知らせと言うのではないが、虫のおかげで思わぬことを知ったというわけである。

島左近

登高やまこと小さき平群谷

斑鳩と平群をへだつ矢田丘陵。

山中に分け入って茸採りならぬ菌糸採りに出かけた。発酵促進剤を得ようと言うわけである。
細い道は車一台がやっとの山道で、丘陵南部には椿井城がある。あの島左近の城である。
「三成に過ぎたるもの二つあり。島の左近と佐和山の城。」
三成に三顧の礼をもって軍師として迎えられ、家康暗殺を提言したが是としない三成に却下されたというエピソードをもつ。最後は関ヶ原の戦いで落命。
城跡は車道からそれて徒歩で行かねばならないが、このあたりは山陵の東も西もよく見晴らしがきき、戦略上重要な位置にあるのは間違いない。
ただ、東の盆地に比べれば西の平群谷の狭さは否定できない。
ちなみに平群町のゆるキャラは「左近くん」。兜に槍のきりりと可愛いキャラクターである。
九月九日重陽の日。小高い山に昇って菊酒を飲むという習慣があったそうであるが、菌糸の匂いに酔った一日であった。

こだわり

バス停に遠き御寺の露葎

同じ名前のバス停があちこちの辻にある。

中宮寺。
バス路線が入り組んでいて、それぞれに中宮寺バス停がある。しかも中宮寺へはどのバス停からも遠い。門前ではないのに中宮寺とかこれいかに。中宮寺前でもなく中宮寺というこだわりがなんとも可笑しい。
斑鳩散歩道はコスモスが似合う。

熱々

鯛焼を匹であがなひ秋うらら

天然がウリの鯛焼きを買ってきた。

天然というくらいだから個数の単位も匹である。
それにしても久しぶりの鯛焼きだが、以前に比べ3割くらい値上がりしていてあらためて昨今の諸物価高騰を思う。
原材料、とりわけ小麦粉、小豆などの高騰などが響いているのであろう。
皮がいくぶん薄くなったような気がするが、だからといって餡との隙間ができるわけでもなく尻尾までびっしりと詰まって熟練の技で焼き上げているのは感心する。
クーラーを効かせてチンしたての鯛焼きの熱々を食う。
コロナ禍の束の間のやすらぎである。

ハンパナイ

コンビニの殘り弁当昼の虫

大きい病院というのはちょっとした検査を受けるのでも一日仕事である。

町医者では原因が分からぬと言うので、私も世話になった地域病院の検査が終わったのはいつものように午後一時過ぎ。
家人を迎えにいった帰り途、おそい昼食をコンビニの弁当で済まそうとなった。
帰ってきた頃は颱風のピークも過ぎたようで、午前中吹き荒れた強風もずいぶん穏やかになった。それでも気温は35度はある。そうとう蒸し暑い野分の名残が体にはりついて気持ち悪い。
どうしても必要なものがあるので、午後は在庫があるホームセンターへ30分以上もかけて出かけたが本日休業の看板。え?HCって元日以外無休じゃないの?県内あちこち探し回ったが、結局どこにも在庫なく無駄足に終わった。徒労感はハンパナイ。

実母散

子に持たす雑巾かがる夜なべかな
アイロンの炭の火おこす夜なべかな

今日のZOOM句会の兼題である。

24時間都市の出現など現代においてはほとんど死語に近くなった感があるが、同じく秋の季題「夜業」との使い分けとなるとなかなか難しいものがある。
「夜業」は組織としての本業あるいはその延長としての夜勤であろうが、秋の趣をどう醸し出すか。これもまたはなはだ難しい。
いっぽう夜なべは個人的あるいは家庭的な都合で行う夜仕事であり、これには秋の夜長、日短という背景を考える必要があるだろう。お百姓さんなら採り入れの季節で夜も惜しんでやらなければならないことも多かったはずである。
農業に関係ない家に育った私は夜なべというと母の内職を思い出す。洗い張りした布を仕立て直すわずかな銭を稼ぎながら育ててくれたのだが、その無理がたたって長く病に苦しんだ。実母散、中将湯など漢方薬を煮出すのを手伝ったことなどを思い出す。
どう考えても古い時代のことばかりを思い出す季題である。

とき遅し

第七波収束見えず秋簾

三日連続の俄雨。

それも時間雨量にすれば50ミリはあろうかという、痛いほどの雨が全身を叩く。
今日の被害は乾燥と殺菌をかねて日光浴させてあった猫砂。突然の雨だったので虚を突かれた感じで、紙製の砂はあっという間に濡れてしまって半分ほどを廃棄することに。
それまではずいぶん傾いた秋日を簾で避けるようにして閉じこもっていたのだが、急を聞いて外へ出たときすでに時遅し。