雛巡り、もう一つの楽しみ

筆すずり文箱にすます雛道具

今日は雛まつり。

この日を中心に、家や寺に伝わる雛を持ち寄ったり、各家に飾って観光客に楽しんでもらおうという催しが各地で盛んだ。
滋賀県では東近江市「商家に伝わるひな人形めぐり」、奈良県では奈良市法華寺「古代ひな人形展」、高取町の「町家の雛めぐり」など、ニュースにもよく取り上げられる。
いずれも古代雛が多く飾られているが、よくできた雛飾りには必ずと言っていいほど目を引く立派な雛道具も添えられている。
道具は、雛の大きさに合わせて原寸よりは随分小さいが、どれも良くできた細工にはほとほと感心するものがある。
聞いた話では、大店や大名家などでは豪華な雛飾りとは別に、「ご内証の雛」と言って個人で楽しむような小さなものを別に作らせたそうである。ここでは、道具も一段と小さく設えられ、禁制もかまわずに競うように贅をこらした微細な細工がほどこされたという。
古代雛のねびた表情を楽しむのもいいが、このような道具に注目して巡るのもいいかもしれない。

地上の星

禁足のロープの内の犬ふぐり

平城京跡は一面草が青み始めていた。

関連する季語で言えば、「下萌ゆ」「草青む」「踏青」「仏の座」「蓬」、そして掲句の「犬ふぐり」もある。
工事中、保護エリアなど立入が許されない場所も多いが、あの広い平城宮跡である。すべてには目や手入れが行き届かないのは当然であろう。
禁足のロープに沿って、犬ふぐりが点々と青い星をこぼしている場所も数知れずあった。足下には、地上の星、地上の小宇宙が広がっている。

雲雀野のオレンジ特急

風鐸の騒ぐは一基春疾風
風鐸の音を攫ひゆく春疾風
春疾風大風鐸を弄ぶ
料峭の風に風鐸響きあふ

平城京の復旧工事もずいぶん進んでいるようだ。

あまりの風の冷たさに逃げ込んだのが、大極殿すぐそばに完成した情報館。ここで、VTRなど鑑賞しながら暖房に身を温めて吟行再開。
外ではバーダーたちが身じろぎもせずに三脚に据えた望遠鏡を覗いている。平城京跡は鳥たちにとってサンクチュアリだけに、次から次へといろんな鳥たちが顔見せに来てくれて、今日の人気一番は「アリスイ」。半径10メートルほどの人垣の真ん中にゆうゆうと餌を探している。
朝の内は風花も舞って、耳も手も痛くなるほど寒くて雲雀は出ないかとあきらめていたら、やがて日が高くなってくると目の前のそこかしこに雲雀が揚がりかつ落ちてくる。家の近所でもよく見る雲雀だが、これほど多くの雲雀を目の前にするのは初めてだ。

雲雀にしばらく見とれていると、大極殿の大きな風鐸がおりからの風に激しく揺すられて、重厚な響きが聞こえてきた。どういうわけか,四隅のすべてが鳴るのではなく、西側のひとつだけが騒いでいて、そこに風が通っているのがよく分かる。
大極殿を見晴るかして、そのずっと向こうには若草山の末黒野が見える。

南に目を転じると、近鉄特急のオレンジがひろい宮跡を横切って行った。

雲雀野を分けて特急突っ走る

明日は雲雀野

嵐もて閏二月の尽きにけり

北の方では天気が大荒れらしい。

吹雪に立ち往生する車列など、今年も気候の激しさを思わざるをえないニュースが飛び込んできた。
明日は、まほろば句会で平城京跡へ。
真冬並みの寒さだというから、あの風避けも何もない広い場所でさまようのかと思うと気が重い。

雲雀だって飛んでくれないかもしれない。
若草山末黒野遠望、鴨たちの渡る準備、などが狙い目だろうか。

国民服の先生

補習受く蒲鉾校舎冴返る

今はもうさすがに見られないだろう。

カマボコ校舎である。
元勤務地が旧軍開発地区にあって、20年ほど前に見たのが最後。テスト機などの格納倉庫として使われていたので相当大きなもので、戦後も長く倉庫として活用されていた。
いっぽう、校舎として使われたのは大抵は元兵舎であったもので、校舎が不足する時代には各地で活躍した。
雨露をしのげればいいというだけのものだから、春秋はともかく夏冬は大変である。
記憶をたどってゆくと、「もはや戦後ではない」と白書に言われて後も、国民服というのだろうか、年間通じて軍服のようなもので通した先生がいたことを思い出した。

季語の少なさに頭を痛めた2月もあと一日。
2月の代表的な季題「冴返る」はまた来年に。

低気圧通過

午後からの雨に末黒野匂ひたつ

雨水とはよく言ったもので、今日の雨は暖かい。

朝には霜が降りるほど寒かったのが、午後からの気温は高くなった。
遅くなって雨が降り出したようだ。静かな雨なので家の中にいると気づかなかったが、外へ出ると梅の香りに混じって土の匂いもかすかに届く。

週末は低気圧が次から次にあらわれて変わりやすい天気だそうだが、一雨ごとに春らしくなってくるようだ。

すぐそこの春

そのかみの磐座秘めて山笑ふ
目の届くかぎり神の座山笑ふ
ダム底に郷愁ありて山笑ふ
離村棄村是非に及ばず山笑ふ
離村すと決めたる肚に山笑ふ

今日もまた零下の朝。

しかし、光の力はまさしく春のもの。
句会へ向かう途中の山々に強い光が当たると、明らかに芽が動き出したことが分かる色に染まってきている。
三輪山も、鳥見山も動き出したのだ。

季節は例年より速いピッチで進んでいる。